ポルノグラフィティ10枚目のアルバム『RHINOCEROS』感想。
※補足情報。タイトル『RHINOCEROS(ライノセロス)』は日本語で動物の「サイ」の意。
すでに発売していた3曲のシングルの一応のコンセプトが「見んさい」「聞きんさい」「歌いんさい」っていうコンセプトからなるものだったのでその「さい」をとってこのアルバム名にしたという説明すると思わず赤面して顔を覆ってしまうような親父ギャグタイトル。そんなタイトルと反して内容はメチャクチャ格好良い一枚でした。ジャケットは近年のアルバムはメンバーの写真がドアップみたいな顔ファンホイホイで男の俺は微妙に書いづらい感じだったのですが、今回はドでかいタイトルに某大人子供ロックバンドのベストアルバムを彷彿とさせるようなサイの横顔、ポルノの動物のジャケ写にハズレ無し。
ポルノグラフィティのオリジナルアルバムを語るとき、「最高傑作といえば?」の問いに挙がるのが、1stアルバムの『ロマンチスト・エゴイスト』か2ndアルバムの『foo?』だろというのが多くのポルノグラフィティファンの共通認識としてあるのですが、今回のアルバムは間違いなくその2枚に負けず劣らずの名盤になりうるポテンシャルを秘めてると思った。
まず、昔と明らかに違う、今のポルノグラフィティの強さは、プロデューサーから離れて新たなアレンジャーが加わったこと増した二人の詞曲の振り幅、そしてボーカル岡野昭仁の歌唱力の違いにあって、それこそ昔のアルバムを聴くと良くも悪くも一本調子でクセのない歌い方をしているのですが近年、特に今作では曲によってがらりと歌い方を変えるカメレオンボーカリストっぷりを発揮しまくっています。
曲のスピードで歌い方を変えるだけじゃなく、例えば同じバラードであっても「wataridori」「ワンウーマンショー」「AGAIN」と聴き比べるとまるで声色が違う。バラードだけに関して言えば、間違いなく三人時代のポルノグラフィティよりも遥かにレベルアップしていて岡野昭仁というボーカリストのおっそろしさを目の当たりにしました。
そもそも、一枚のアルバムが好きかどうかを決める判断基準って人それぞれだと思うんですけど、多くの人の評価対象になるポイントは曲順とかコンセプトとかみたいな言葉で言い表すのが難しい要素じゃなく単純に「好きな曲が多く入っているかどうか」だと俺は思っていて。
例えるなら、スポーツ漫画でよくある「帝」「王」「山」「神」が付くチームの考え方のそれで「エースで4番が9人いれば最強だろ」的な考えで、極論言えば自分の大好きな曲が14曲入ったアルバムがあれば「ぼくのかんがえたさいきょうのアルバム」で、エースで4番ばかりが収録されているベストアルバムが売れる1つの理由でもあると思います。
ただ、この『RHINOCEROS』は少し違っていて、1曲目の「ANGRY BIRD」でガッと心臓を鷲掴みにされ、続く近年の代表曲のひとつとなり得る「オー!リバル」の流れやアルバムのラストにシングル級の「ミステーロ」を持ってくるあたり、野球で言えば3・4・5番のクリーンナップを1・2・9番に持ってくるような確信犯的な曲順配置の仕方に完全にやられた。今までのポルノのやり方なら、m-CABIとかパノラマポルノみたいに「俺たちのセレブレーション」始まりの「wataridori」終わりになっていたと思うしそれじゃあ物足りなく感じてたかもしれません。
※実際に後のインタビューで晴一が「ANGRY BIRD」を一曲目にするかどうかでスタッフと揉めたみたいなことを言っていた。
中盤の「Hey Mama」やインストの「螺旋」もすごい良いアクセントになっていて、1曲1曲が濃厚なのに全体の流れが滅茶苦茶良くて、ともすれば、少しほころべばバラバラになりそうな個性派が集まったチーム、いわば湘北高校、青春学園的楽曲達を1枚のロックアルバムにまとめているあたりは、それこそエースを揃えた山王高校、氷帝学園的なアルバムの『ロマンチスト・エゴイスト』『foo?』に勝るとも劣らないアルバムです。
「なぁ、樺地?」
「ウス」
というわけで全曲感想です。
1.ANGRY BIRD
作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:篤志, Porno Graffitti
ポルノグラフィティで一番好きな曲はその時々でコロコロ変わるんですけど、この「ANGRY BIRD」がめでたく単独一位です。最強。「てめえなんでシングルで切らねえんだ」とスタッフの四肢を縛り付けて一日問い詰めたくなるくらいに完成度の高い曲。過去曲に例えるなら「ラック」とか「煙」とかに近いゴツゴツとしたロックナンバー。
多くの人が抱く「ポルノグラフィティ」のイメージとはずいぶんかけ離れていて、目についた奴を手当たり次第ぶん殴るヤンキーのみたいに攻撃的な曲なんですけど、それがホント怖ぇくらいにガッチリはまっていて、しばらくこの路線で進んでくれないかなと本気で思った。
2.オー!リバル
作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁 / 編曲:tasuku, Porno Graffitti
どこがどう好きかというのは過去記事で書いた通り。最高。ここ1年半くらいのシングルの「当たってない感」は今思い返してもゾッとするしまさに『「青春花道」から「ワンウーマンショー 〜甘い幻〜」までのシングル地獄説』だったんですけど、オー!リバルがあって本当に良かった。心底ポルノグラフィティというアーティストに惚れ直した楽曲で、「2012Spark」然り、昭仁曲晴一詞編曲taskuは今のポルノにおける最高の組み合わせだと再確認した。
3.Ohhh!!! HANABI
作詞:新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁 / 編曲:シライシ紗トリ, Porno Graffitti
編曲が大好きなSMAPの「free bird」のシライシ紗トリさんということで期待してたんですけど、解禁されたときから悪い意味で度肝抜かれた。マジで糞。どこがどう嫌いかっていうのを400字詰めの原稿用紙10枚に書いてアミューズに送りつけたい。
サビの「ヒュルルドカン」「あ〜かあ〜おき〜んぎ〜ん」の超絶ダサさとか「あでやかだねぇ〜〜〜っ」のTUBE前田感、2番の「ハッとしてグッと」のトシちゃんオマージュ感他他他、恥ずかしすぎて聴いてられない。
そのくせ、一発聴いたら口ずさめるほどメロディーラインがキャッチーなのがまた鬱陶しい。で、なにが1番キツイってポルノ側がこの曲推したがってるってことで、これがこれからの盛り上げ定番曲になるのかと考えると白目剥くしかない。Ohhh!!! HANABI憎けりゃ袈裟まで憎い。絶対阻止する。
4.wataridori
作詞・作曲:岡野昭仁 / 編曲:tasuku, Porno Graffitti
「むかいあわせ」「生まれた街」のような昭仁バラード。ただこの2曲と違って良い具合に曲が短くて聴きやすい。基本的にこのテの昭仁バラードは胃もたれ凄いのであんまり好んで聴かないんですけど、wataridoriだけはなんでかたまに無性に聴きたくなる。
5.Hey Mama
作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:Porno Graffitti
「ウェンディの薄い文字」に続く、晴一歌唱の曲で前情報からものすごい人身事故になるのかと思ったのですが、意外や意外、次曲の「俺たちのセレブレーション」に繋がるような楔(くさび)の曲かよ!って思いながら聴いてたら、ラストの日本語で衝突した。飲酒運転だろ晴一。
6.俺たちのセレブレーション
作詞:岡野昭仁, 新藤晴一 / 作曲:岡野昭仁 / 編曲:江口亮, Porno Graffitti
この曲自体は好きじゃないくて、むしろ初めて聴いたとき「お、おい…やめとけ…」ってなった。ただ、番組でやたら中居君が褒めてたことだけは覚えてる。
1番2番で作詞者が変わっているせいなのかなんなのか(1番が昭仁、2番が晴一)、曲全体のまとまりの無さがどうにも聴きづらくて悪い意味で何を伝えようとしてるのかまったくわからない曲。ただ、アルバムの流れとして通して聴くと「Hey Mama」のあとに聴くとこのカオス具合がまだ上手い具合に中和されている感じがした。
でもやっぱり、2番のふざけたノリで通したほうが今までにない面白いシングルになったんじゃねぇかなぁと思った。
7.Stand Alone
作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:Porno Graffitti, 宗本康兵
「Human Being」や「PRISON MANSION」のような騒がしい曲。Bメロのちぐはぐ感が癖になる面白い曲。あんまり言うこともない。サビ終わりの昭仁の高音どうやって出してんだ。
8.ワン・ウーマン・ショー 〜甘い幻〜
作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:宗本康兵, Porno Graffitti
俺はこの曲めちゃくちゃ好きなんですけど評判悪かったんだって。雑誌『ワッツイン』での晴一曰く「もう狙って曲書くのやめた」ってよ。
誰だ、新藤君の悪口言ったの。目ぇつぶって手を上げろ。先生怒らないから。新藤晴一の十八番、女性目線で夜空から始まり朝日で終わる起承転結の美しい小説のような歌詞、昭仁の声に良く合うメロディ、最高だろうが。サビ頭の「あぁなたぁに…」なんてもう脳トロトロに溶けてビチョビチョ。
最後の囁き「甘い…幻…(笑)」がいらねえ?知るかよ。お前がオーディオソフト使って囁きだけ消せ。ちなみに俺は消した。
9.ソーシャル ESCAPE
作詞・作曲:岡野昭仁 / 編曲:根岸孝旨, Porno Graffitti
SNS時代である現代を皮肉った曲で、このたまにある急な「若手バンド感」が俺は少し苦手。こういう曲も惜しげもなく出しちゃう振り幅がポルノグラフィティ。
10.バベルの風
作詞・作曲:岡野昭仁 / 編曲:tasuku, Porno Graffitti
9枚目のアルバム『PANORAMA PORNO』に収録されていた『カシオペヤの後悔』を彷彿とさせるデジロックナンバー。岡野昭仁という人間の声はアップテンポでもポップな曲よりも、なんだかんだこういうロック寄りの曲が合っている気がする。
11.AGAIN
作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:立崎優介, 田中ユウスケ, Porno Graffitti
最高。俺はこの曲を失恋の曲だと思って聴いていたんですけど、別に具体的に2人の関係を示しているものは何もなくて。多分リスナー一人ひとり受け取り方が違ってくると思うんですけど、普通こんな書き方したら破綻するんですよ、なんの曲だよこれって。だって「AGAIN」しか言ってないんですよこの曲。結局最後まで「会いたい」とも「好きだ」だとも言わない。もしかしたらラブソングですらないのかもしれない。でもここまで胸に響く表現力たるや新藤晴一は現代の小林一茶だよ。
個人的には失恋とか別れの曲を書かせたらポルノグラフィティは日本一だと思っているんですけど、その理由はどっかの男とか女みたいに「まだ好きなのだから会いたいの」を歌にするときにそのまま「まだ好きだから会いたいの」って言わないとこです。いや、厳密には言ってるんだけどギリギリまで言わない。例えば、ドラマだって1話で「○○が大好き!」ってヒロインが言っちゃったら残り9話なにすんだよてめえって思うじゃないですか。
女優はかわいいし、主演はどうせジャニーズだから適当にいちゃつかせときゃいいかもしれないですけど、それを歌でやっちゃったら俺はたぶん「つまらねぇ曲だな」って思う。
それは『Century Lovers』の歌詞の中で「最初からハッピーエンドの映画なんて3分あれば終わっちゃうだろ?」と言っているようにデビュー当時から新藤晴一がずっと貫いてきた歌詞スタイルでもあって。
仮にそれが往年のベテラン、例えばウルフルズのトータス松本さんみたいにキャラも立っていて年輪も重ねて酸いも甘いも知り尽くした人が「イエーイ!君を好きでよかった」ってやるんなら一周回って心に響くかもしれないけど、「ポルノグラフィティ」はそこ目指す必要ないよな〜って思ってて。俺がナオト・インティライミ、ファンキー加藤にイライラする理由も多分そこから来てる。そういう「言わない妙」みたいなものがよくわかる曲。やっぱりポルノは回りくどいのが合ってる。
12.Good luck to you
作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:江口亮, Porno Graffittii
まさかの新藤晴一ラップ。このギターがたまにCメロで突然歌い出す感じどっかで聴いたなーって思ったらB'zなんかがたまにやってるアレだ。意外と悪くなかった。それと「抱きたいか抱きたくないかだ」のあとなんて言ってんだ。「海綿体」?
13.螺旋
作曲:新藤晴一 / 編曲:宗本康兵, Porno Graffitti
どっちができたのが先かは知らないですけど、次の「ミステーロ」に繋がるインスト。あんまり音楽の専門的なことはわからないので詳しくは書けないんですけど、ポルノのインストって良いなぁって思う。いつか関ジャムなんかでいしわたり淳治さんなんかが解説してくれませんか。
14.ミステーロ
作詞・作曲:新藤晴一 / 編曲:立崎優介, 近藤隆史, 田中ユウスケ, Porno Graffitti
ずっと待ち望んでたこの歌詞の意味分からん感。『ネオメロドラマティック』『ジョバイロ』を彷彿させるような比喩アンド比喩。「神話の中に捨てた首飾り」「間違いだらけで作る可憐なドレス」は?一文字も意味わからん、ゾクゾクする…。
上の感想記事や「AGAIN」の感想でも書いたんですけど、新藤晴一の「たった数文字を表現するのに千文字を尽くす」スタイル愛してる。
以上全14曲でした。ひと通り聴き終えて思ったのは「見んさい『ANGRY BIRD』聞きんさい『AGAIN』歌いんさい『オー!リバル』だったら売上4倍だったろ」です。