ドラマ『カルテット』4話の感想。
実は妻子持ちだったことが明らかになった家森(高橋一生)。家森は諦めたかのように過去の話をつらつらと三人に語り始めるが、その本心はまだ見えてこない。そもそもこの『カルテット』というドラマはどの登場人物にもどこかケレン味があり、ふわふわと雲のように掴みどころがない。
家森の妻、「足が臭い美人さん」こと茶馬子(高橋メアリージュン)はトイレのスリッパを履き続ける女だ。そう、すずめ(満島ひかり)と同じトイレのスリッパを履き続ける女だ。ニセの恋人役を演じることになったすずめの「巻さんのほうが恋人っぽいじゃないですか」に対しての家森の「茶馬子は僕のことを知ってるからね」のアンサーの真意は端的に言ってすずめがタイプだということなのだろう。たしかに、すずめも「足の臭そうな美人」ではある。
結婚ってこの世の地獄ですよ
妻ってピラニアです
婚姻届は呪いを叶えるデスノートです
前クール「逃げるは恥だが役に立つ」でも「呪い」というワードが出てきていたがこのカルテットでもとうとうこの言葉が飛び出してきた。結婚なんてしょせん幻想だ、儚い夢だ、甘いことばかりではない、そう捉える人間はとても多い。2013年に放送されていた同脚本家の坂元裕二のドラマ『最高の離婚』においてもそれは痛いほど証明されている。だが、中盤に巻(松たか子)が放ったこの言葉によって「呪い」がそっと浄化されていく。
結婚って天国だ
妻ってノドグロだ
婚姻届って夢を叶えるドラゴンボールだって
たしかに幻想かもしれない、儚い夢かもしれない、でもだからこそ、それぞれの「夫婦」という形を自由に作っていくことこそが、逃げ恥から続く「呪い」に対するひとつの答えなのではないかと思う。
家森:茶馬子は俺のドラゴンボールだよ のどぐろだよ キンキだ クエだ
茶馬子:あと?
家森:あと…伊勢海老
茶馬子:魚!
巻:(家森に小声で)関さば…
家森:…関さば!
そう嘯く家森と微笑む茶馬子のなんと微笑ましいことか。
別府(松田龍平)がゴミ出しをやめたことによってどんどんと家に溜まっていくゴミ。他人が見ればゴミのようなものでも捨てることができずにいる。別府の「ゴミを捨てない人間はゴミからみてもゴミです」という台詞。確かにその通りだろう。「生きるということは捨てられないものが増えていくということ」と誰かが言っていた。開けたままのワイン、巻鏡子(もたいまさこ)が落としていったメガネ、息子に送ったバイオリン、夫の靴下。捨てられないもの、無駄になってしまったものは確かに多い。そういったものを彼らは抱えて生きているのだろう。捨てられないのは自分がかつて抱いていた夢なのかもれない。それらはいわば捨てられない想いのメタファーなのだ。だがそれでも、日々は続いていく。ここで主題歌である『おとなの掟』の歌詞が頭をよぎる。
人生は長い 世界は広い
自由を手にした僕らは グレー
そう、白と黒、清濁を飲み込んで自由を手にするために前を向いていかなければならないのも、また人生なのだ。
後半、ストーリーは急展開を迎える。3話からすずめに執拗に執着し始める有朱(吉岡里帆)、3話でのすずめとのやりとりからもしや彼女はレズビアンなのではないかという疑問が浮かんだが、4話では鏡子とのやりとりを盗み聞き、金銭を要求するなど、その本心はまだ見えてこず、ケレン味だけが残る。彼女の心の内を知る日は来るのだろうか(「目が笑ってない」と評される彼女だが、3話ですずめと笑い合っていた有朱は心から笑っているようにも見えた)。一方で、冒頭から暴走し始めていた別府の制御が効かなくなる。ひたすら剥いた甘栗をおもむろに巻に食べさせる。
あなたといると二つの気持ちが混ざります
楽しいは切ない
嬉しいは寂しい
優しいは冷たい
愛しいは…虚しい
愛しくて愛しくて虚しくなります
語りかけても、触っても、そこには何もない
じゃあ、僕は何からあなたを奪えばいいんですか?
抑えきれない巻に対する別府の気持ちのメタファーが「ゴミ捨ての放棄」だったのだろうか。指を絡ませ合う二人。手ックス。
様々な確信に迫るであろう第5話、予告でも「第1章完結」とあるように色々な意味でターニングポイントになる回には間違いない。次回も僕達の想像をどう超えて来るのか、楽しみでなりません。