秋元康の無敵のキモさ
『歌詞』って言っちゃえば「よりキモいこと書いたもん勝ち」みたいなとこあると思うんですけど、その勝負において秋元康ってマジで無敵なんじゃないでしょうか。
自分で歌うにしろ、誰かに提供するにしろ、いや作詞に限らず文章書くときってかなり慎重に言葉選びますよね。「ここのフレーズダサいかな…」「ちょっと押し付けがましいかな…」「いや、これはさすがに気持ち悪いだろ…」って。だから好き勝手に書いてるようでいて実は使える言葉っておのずと限られてて、意識的でも無意識でもどっかでブレーキかかる。
でも、欅坂46の歌詞とか見てもらったらわかるんですけど、秋元康って完全にイカれてるんですよ。いやたぶんブレーキなんて最初からついてない。ただの改造車。他の作詞家がブレーキかけながら慎重にカーブ曲がってんのにあいつだけ歩道乗り上げてアクセル全開で真っ直ぐ突っ切ってくるみたいな。
秋元康って作詞家を一言で表すなら『無限』。「恥ずかしい」って感情が(恐らく)欠落してるからどんなジャンルの曲にも歌詞つけられるし、どんな言葉でも乗せられる。普通の作詞家が1,000言葉知ってても5〜600しか選択肢がないのに対して、秋元康は1,000フルで使えますから。ペース落ちることなくガツガツ書いていけるし、ネタも全然尽きない。そう考えたら説明過多の歌詞にもちょっと納得できる。
特に「眩しすぎる君に素直に好きと言えないオクテな僕」みたいな曲何曲書いてんだよ、もういいよ、腹いっぱいだよこっちはもうとっくにゲロ吐いてんだよって感じなんですけど、蛇口ひねる感覚で言葉出てくるんでしょうね。
ちょっと調べたんですけど、例えば乃木坂46だけで一人称『僕』の曲138曲中61曲もあるんですよ。どんだけ書くことあるんだよ。マジで無限。もはや「水」とか「風」とか「雲」の類。超キモい。
※一人称『私』44曲、『俺』2曲、『一人称なし』31曲
乃木坂46『意外BREAK』の90年代ドラマ主題歌感
そんな秋元康の無敵のキモさをふまえて、乃木坂46『インフルエンサー』のカップリング曲『意外BREAK』。ワードチョイスのキモさが打ち込み系のメロディにビックリするくらいよく合っててキモさが完全に良い方向に働いたパターンの超名曲。乃木坂で一番好き。
歌詞の内容は珍しく一人称「私」でいわゆる「女の失恋」がテーマの曲なんですけど、出だしから
「カブリオレのルーフ 全開にしちゃって首都高湾岸線を走る
爆音で流すソウルミュージックさえ 風向き次第でやさしく聴こえる」
いやアイドルに歌わせる歌詞かよ。「カブリオレ」「ソウルミュージック」ってもうオッサンの加齢臭隠す気まるでねぇ。オープンカーで首都高走る女って絶対こち亀の麗子だろ。
だけど、この絶妙な古臭さ、オッサン臭さが90年代のドラマのエンディング曲にダブって懐かしさで胸が苦しくて死にたくなる。『ショムニ』とか『ナースのお仕事』とかの主演女優に歌わせるタイプの曲感すごい。たぶん江角と観月が聴いたら「わ、私に歌わせてっ…!」って土下座してくるレベル。
Bメロからマイナーコードでちょっとフッと切なさ漂わせてからのサビ頭でタイトルの「意外BREAK」持ってきてキャッチーさ作る感じ、マジでアラサー・アラフォー皆殺しにきてます。
しかも『意外BREAK』は白石麻衣・松村沙友理・高山一実・衛藤美彩の4人が歌ってるんですけど、普通にめちゃめちゃ恋愛してそうじゃないですか。たぶん他の乃木坂メンバーの誰が歌っても成立してないすごい生っぽいメンツ。特にBメロの衛藤美彩の耳が溶ける声、ああー完全にやってんなこれ。
あと、秋元康にしてやられたのが、この曲のメロディのイメージ俺の中でめっちゃ「夜」なんですね。イントロのシンセサイザーの感じなのか、コーラスの雰囲気なのかわかんないですけど、バリバリ街灯が光る夜の首都高速ってイメージだったのに、思いっきり
「飛行機が青空横切ってく」「涙じゃなくて太陽のせい」
って歌ってる。ド日中……。その瞬間、それまで頭の中で浮かんでたムーディーな映像が粉々にぶっ壊されて、満天の青空の下、小太りのメガネのオッサンのドヤ顔がバーン!って飛び込んできてめちゃめちゃ吐いた。このメロディで「青空」「太陽」って言葉普通出てこねぇって。すげぇよ、秋元康。最高にキモい。