固いものを噛むのが大好きで、究極は「味つき石」を噛んで歯が粉々に砕けて死ぬのが理想の死に方だが、そんなものはないのでグミを噛む日々だった。
が、出会ってしまった。グミを愛しグミに愛された「グミ狂」とも言える俺が出会った中でも最強にして最硬のグミ。その名も『忍者めし』。秘密結社「UHA味覚糖」からリリースされている禁断の劇グミ。
コンビニで『忍者めし』を見つけた瞬間、曇りがかった空に晴れ間が差したような気がした。自分がこの世に生を受け、苦難の人生を今日まで歩いてきたその理由がはっきりとわかった。
小学校の卒業文集「クラスなんでもランキング」で『サメに食べられそうな人1位』とかいうこの世で最も価値の無いランキングの1位にさせられた絶望で彩られたこの人生の意味がやっとわかった。
そう、自分は歴史の闇に葬られた呪われし忍一族「火影」の末裔だったんだと。
この『忍者めし』が他のグミ共と一線を画する圧倒的な硬さを実現できたその最大の理由がグミに外側をコーティングしている「糖衣層」にある。
「糖衣層」とはすなわち、外部からのあらゆる攻撃を弾く最上級忍術『最硬絶対防御・守鶴の盾』のことだろう。これを並の人間、いや並の忍に破ることは不可能。まさに「自分の歯を無くす覚悟」を持ってこのグミと向き合わなければならない。
『忍者めし』を食べようとするとき、まず必ず自分の歯に「チャクラ」を集中させる。自分の腹部の内側にあるチャクラの源「着源」を胸部、喉部と徐々に押し上げていく。身体に渦を巻いていくイメージ。排水口、お前は排水口なのだ。そして一度頭部まで持ってきたチャクラを歯の一本一本に分散させていく。あみだくじ、そう、自分の頭頂部から歯にかけて繋がっている「あみだくじ」をイメージさせる。そしてそれぞれの歯に均等にチャクラが行き渡ったところで、
「ホアァアッッッ!!!」
と叫びながら『忍者めし』を噛む。一瞬でもタイミングが間違えば歯は粉々に砕け散ってしまうことだろう。が、この試練を乗り越え糖衣層を破った「上忍」にのみ至福のひと時は訪れる。『忍者めし』にも「もも」「みかん」「ラムネ」「コーラ」「梅かつお」など様々な種類があるが、なかでも圧倒的なお気に入りは「巨峰」。
こだわり素材を使用して、さらに巨峰感UP!噛むたびに果汁感溢れるフルーティな味わいでござるヨ。
「味わいでござるヨ」なにが「ござるヨ」だ忍者をナメるなクナイ千本飲ますぞと言いたくなるが、その味は正真正銘の「本物」。噛んだその瞬間、「糖衣層」の中で溜め込まれていた果汁感が一気に爆散する。口いっぱいに広がっていく巨峰のみずみずしさ、甘酸っぱさ、それらが一瞬で溶け合い「幸せ」という名のチャクラが口内が満たされていく。噛むたびに増していく旨味。巨峰よりも巨峰を感じる。果実以上に果実。最後の果実。そうだ、これこそが自分が探し求めていた「味つき石」だったのだ。
そして毎日のように『忍者めし』を食べ続けることで、歯はなくなるどころかその強度を増し、もはや兵器となった。誰も俺を止めることはできない。
…誰かが言った、忍者とは「忍術を扱う者」ではなく「耐え忍ぶ者」だと。
見てるか、6年A組。いやAグミ。
かつて『サメに食べられそうな人』で1位を獲った男は今、サメよりも強い歯で『忍者めし』を食べている。
は…?なに?この人生?