『大戸屋』
日本が生んだ世界最高の定食屋。 メニューの豊富さ、味と値段のバランス、接客、立地、そのすべてが日本人の欲求を満たすように計算された魔の店。大戸屋をはじめて食べたときの感覚、それとまったく同じものをOfficial髭男dismのニューアルバム『Traveler』に感じた。
アルバムの顔、主食、メイン料理である『Pretender』『宿命』『FIRE GROUND』『Stand By You』『イエスタデイ』の美味さは言わずもがな、
「僕らなんか、Pretenderさんや宿命さんを引き立てるつけもの、味噌汁に過ぎませんから…エヘヘ」
という顔をしているアルバム曲がとんでもない名曲ぞろい。特に『最後の恋煩い』が完全に1杯10万の味噌汁。ゴチで出てきたら一発で大誤算でクビ。
バラエティ番組『ゴッドタン』の「お笑いを存分に語れるバー」という企画で、かまいたちが自分たちの漫才について「20〜25秒に1ボケ入れるように計算している」と言っていて、Official髭男dismの作る音楽もそれと同じように曲のいたるところに耳が引っ張られる「聴きどころ」が仕掛けられているのが特徴だと思っているんですが、『最後の恋煩い』は2秒に1回のペースで耳が溶ける鬼仕様。
シュゥワァーーーーィ
最〜〜〜後の恋煩いを始めよィォォオオオ〜〜〜〜何度もこれが最後って言い合おォォォォオオオ〜〜〜〜〜!
パパパアラァアアアパッッッ!(デッデッデッデッデーーー)(ニョニョヌニョウィッッッ)パッパッッパッパアパッッ!(デッデッデッデッデーーー)(ニュニョニャィッ)パッパッッパッパアパッッ!(テレレレエンレレレ!)パッパアッパパアッパッパーーパ(テレレレン)デトデトンデデェーーーデェーー
目を閉じたッッてェ!
この時点でもう耳ない。謎のイントロの浮遊感。懐かしさと新しさ、未来と過去を言ったり来たりするメロディ。音楽によるタイムトラベル体験。
(ヴァーーーヴァッ!)特大の罵声もッッッ!(トコトンッ)受け取るからいっそォッッ!(ヴァーーーヴァッ!)
生前!(バパラァ!)贈与!(デェンデェン!)のッッ(クァンゥェェン!)冊子のォッッッ!(ドコロンクェーーー!)
声に絡む楽器隊が頭おかしくなるくらい気持ち良い。そして口の中に輪ゴムでも入ってんのかと思うくらいパチンパチンと跳ねる発音。馴染みのない日本語を英語のようにネイティブに発音することでスッと脳に入り込ませる、それが寄生獣ボイス藤原聡。
「生前贈与の冊子の表紙を飾るような年頃になっても」…元銀行員にしか書けないこのフレーズ、半沢直樹2出演確定。
…と、こんな感じで勢いそのまま、ボコボコボコボコ!と音の雨にタコ殴りにされたまま最後まで行くのかと思ったら、2サビ終わり…
…夢の波間に残されてェエエ……………立ち尽くしてェいィィるゥゥゥゥ…………
フェェェエエエン……プペェロロロォォォン……
フェェッ…フェッ…フェホッ…フェホッ……フェホッ…プェェホッッ…フェエェェエ…ペェロロロォォォン
突…然…に…一…瞬…だ…け…光っ…て…消え…る…綺…麗…な…
なんか急にアダルトビデオの冒頭みたいなの始まった……
困惑しかけた瞬間、
思い出より!やんちゃ〜〜〜〜〜なッッッッ!終身派ッ!しょうもな〜〜〜〜いことでも〜〜〜〜〜!ご愛嬌〜〜〜〜〜〜!
ドゥンドゥッドゥドゥデェッッドゥデェンデレェーーーー!(ブペラパベェーーーー!)
最〜〜〜後の〜〜〜〜!
振り幅……まさに耳自体が意思を持って勝手に旅行する『Traveler』を体現した凶曲。
…このレベルの料理がバンバン出てくるのがTraveler定食。そしてこのアルバムの最もすごいところ、それは…
藤原「君と重ねる今うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぅぅぅぅーーーーーーーー(裏声)」
テゥーーーデェヅルルルゥーーールゥーーー(ウゥーーーーーーーー)デゥーーデゥレデゥーーーデゥレデゥーーーデゥレッッ…!)」
…
「(チチッ)デッッデッッデェーーーーーードゥドゥレレレッデッデッデェエーーーーーーレレレレ!」
(ザッザッザッザッ…ザッザッザッザッ…!)
藤原「ンンーーーーーーーーンンンンーーーーーーー」
(シュゥゥゥイイイイイーーーーーー)
ドゥチッチ!
藤原「完成形を口に出すとシラけてしまいそうだからァ……」
…アルバム曲とシングル曲を一緒に食べたとき、単品で食ったときの美味さの何億倍にもハネ上がる流れの完璧さ。
『ビンテージ』からの『Stand By You』、『FIRE GROUND』からの『旅は道連れ』、『Pretender』からの『ラストソング』…一曲一曲が店出せるくらいの名曲なのに主食、主菜、副菜、汁物…と「定食」としてまとまっている。それが『Traveler』というアルバムであり『大戸屋』という定食屋です。おそろしい…
Traveler…トラベラー…とらべらー…おおとやー…おおとや…大戸屋…
は?