秋元康がプロデュースするアイドルを一言で表すと
「闇が深ければ深いほど、光も強く輝く」
そう、秋元康の書く歌詞の内容がキモければキモいほど、相対的にアイドル達も輝きを増していく。先日アイドルソングの一人称「僕」の曲、あんまり俺をなめるなという文章を書きましたが、実は「一人称が『私』の曲」こそが秋元康という化物の力を120%開放できるウエポンなのです。
リミッターが外れた秋元康はもはや無敵。誰も止められない暴走機関車。
そのなかでも一番モロに影響を受けていると思われる業を背負いし聖なるアイドル『乃木坂46』の一人称「私」曲を10曲紹介します。
ぐるぐるカーテン
デビューシングル
歌唱メンバー:川村真洋、能條愛未、西野七瀬、齋藤飛鳥、斉藤優里、桜井玲香、井上小百合、中田花奈、市來玲奈、橋本奈々未、松村沙友理、白石麻衣、高山一実、生田絵梨花、生駒里奈、星野みなみ
メンバーのほとばしる地下アイドル感、メロディとアレンジの一昔感、そして歌詞の「こんな女子いまどきいねぇだろ」感…「クソオタクが思う理想のアイドル」を詰めに詰め込みまくったデビューシングルにして最凶兵器。
曲の視点が「休み時間にカーテンの中に隠れてひそひそ話している女子」から「その女子を遠くから眺めてる男」に気づかないうちに変わってる激地獄曲。
せっかちなかたつむり
3rdシングル『走れ!Bicycle』カップリング
歌唱メンバー:松村沙友理、白石麻衣、高山一実、中田花奈、西野七瀬、橋本奈々未、深川麻衣
小刻みに繰り返されるクラップと呪いのように流れる謎の「ヘイ!ヘヘイ!ヘイヘイヘヘイ!ヘイヘイヘイヘイヘイ!フー」、一曲聴き終わる頃には頭おかしくなってくるコカ曲。
秋元康は人間を別の生き物に例えたがる特殊性癖の持ち主です。人間を描くとき、あえて人間以外にフォーカスを当てることでより「人間」というものの本質が浮かび上がってくるのです。「かたつむり」というのんびりとしたイメージのある生き物に「せっかち」とつけることによって「告白する勇気もないカラに閉じこもってばかりなのに想いだけはあふれてくるもどかしさ」を表現しているのです。なにこいつヤバ。
13日の金曜日
5thシングル『君の名は希望』カップリング
歌唱メンバー:安藤美雲、市來玲奈、伊藤万理華、衛藤美彩、柏幸奈、川後陽菜、川村真洋、齋藤飛鳥、斎藤ちはる、斉藤優里、中元日芽香、能條愛未、畠中清羅、樋口日奈、宮澤成良、大和里菜、和田まあや
ホラー映画の恐怖を口実に彼にくっつこうとする女子のズルさとあざとさを描いた曲。
「きゃあースクリーム」「甘いストリーム」の語感の気持ち良さ、「13日の金曜日は不吉な日」という共通認識を逆手に取ってとびきりハッピーにまとめあげてる構成力はさすがとしか言いようがない。
が、曲のド頭。
「土曜の夜は彼と映画に行こう」
…そう、現時点では行ってない。『13日の金曜日』って曲名なのに映画に行くのは次の日の「14日の土曜日」…つまり…「14日の土曜日に彼と映画デートに行くことを13日妄想してる彼女をオッサンが妄想して書いてる」……秋元康が一番のホラーだよ
ロマンティックいか焼き
5thシングル『君の名は希望』カップリング
歌唱メンバー:秋元真夏、生田絵梨花、生駒里奈、伊藤寧々、井上小百合、桜井玲香、白石麻衣、高山一実、中田花奈、永島聖羅、西野七瀬、橋本奈々未、深川麻衣、星野みなみ、松村沙友理、若月佑美
ストリングスの美しさとメロ部分のボーカルの色気とサビのかわいさとのギャップに心臓がはち切れる。
そして気持ち悪い造語を作らせたら日本一の康。「ロマンティックいか焼き」→「いか焼きも好きな人と食べればロマンティック」→「背中を灼いたあと お腹も灼かなきゃね」→も、もしかして「私=いか焼き」なのでは…?読ませる歌詞展開。秋元康はどこまでもオタクの妄想を掻き立てる。
世界で一番孤独なLover
6thシングル『ガールズルール』カップリング
歌唱メンバー:伊藤万理華、井上小百合、中田花奈、若月佑美、星野みなみ、秋元真夏、深川麻衣、斉藤優里、桜井玲香、生田絵梨花、生駒里奈、西野七瀬、高山一実、松村沙友理、白石麻衣、橋本奈々未
バキバキのサイケデリックで無機質メロディに反比例するかのような感情的な歌詞。
秋元康はあえてメロディと真逆のテーマの歌詞を書くことでより互いが引き立つようにする手法をよく使う。これが「康リバウンド」
魚たちのLOVE SONG
12thシングル『太陽ノック』カップリング
歌唱メンバー:白石麻衣、高山一実、橋本奈々未、深川麻衣
康の書く「私曲」には、「私」自身が主人公になる「主観タイプ」と、架空の「私」とと「別のなにか」を対比させて物語を語る「客観タイプ」の曲があるのですが、この曲は後者。徹底して魚の心情を妄想することでより私の悲しみを引き立たせている。
誰よりも物事を俯瞰で見ることができ「作った曲を絶対に自分では歌わない」秋元康だからこそできるテクニック。
きっかけ
2ndアルバム『それぞれの椅子』収録
歌唱メンバー:秋元真夏、生田絵梨花、生駒里奈、伊藤万理華、井上小百合、衛藤美彩、齋藤飛鳥、桜井玲香、白石麻衣、高山一実、西野七瀬、橋本奈々未、星野みなみ、堀未央奈、松村沙友理、若月佑美
なぜシングルにしないのか意味がわからない完成度のド名曲。
ミスチル桜井和寿がカバーしたことでも話題ですが、人生を別のものに例える歌詞表現やら後半の転調やら最初っから曲の節々にミスチルを感じるので、俺の予想では桜井和寿が気にいることを見越して作ったんじゃないかとすら思ってるんですが、考えすぎだよな…そんなハズないよな…
ないものねだり
16thシングル『サヨナラの意味』カップリング
歌唱メンバー:橋本奈々未
あんなにキモかった言葉選びが嘘のように美しい歌詞でギャップにゲロ吐いちゃう。秋元康のすごさとは「キモいに全振りできるからこそ美しいにも全振りできる」引き出しの多さ、ババアの家のタンス。
そしてそれを歌う橋本奈々未の圧倒的な女神感。聴いてると生まれ変わりたくなる。
意外BREAK
17thシングル『インフルエンサー』カップリング
歌唱メンバー:衛藤美彩、白石麻衣、高山一実、松村沙友理
「カブリオレのルーフ 全開にしちゃって首都高湾岸線を走る
爆音で流すソウルミュージックさえ 風向き次第でやさしく聴こえる」
メロディも歌詞も涙出るくらい古臭い、聴いてると90年代にタイムスリップするアラサーアラフォーメッタ刺し曲。 世が世なら確実に『ショムニ』『お水の花道』『まもって守護月天!』の主題歌張ってた。オープンカー乗りながらソウルミュージック爆音で流す系女子ってなに?こち亀の麗子?
滑走路
23thシングル『Sing Out!』カップリング
歌唱メンバー:伊藤純奈、佐々木琴子、寺田蘭世、中田花奈、中村麗乃、樋口日奈、向井葉月、山崎怜奈、吉田綾乃クリスティー、和田まあや
アレンジの中毒性、切なさ2兆のボーカル、サビ前の脳トロセリフ、キャッチーかつエモーショナルなサビ、大サビ前の間奏の絶妙なタメ、タイトル『滑走路』からの「滑走路なんか必要ない 今すぐそらへ飛び立てるよ」の歌詞の裏切り、全てが完璧…康大好き…
結局俺は秋元康には勝てないのか……