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『感電』感想、米津玄師の音楽と野木亜紀子のドラマの親和性について

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曲の頭から爪先までどこをとっても米津米津米津

誰が聴いてもわかりやすい名曲『ピースサイン』『Lemon』『TEENAGE RIOT 』…といったいわば「表米津」と、聴けば聴くほどジワジワと耳が侵される『駄菓子屋商売』『ゴーゴー幽霊船』『ポッピンアパシー』『でしょましょ』…の「裏米津」の融合、キャッチーと難解のいいとこ取り…食べ放題

米津ビュッフェが、いま開催された

 

『感電』というソリッドなタイトルとは裏腹のユルリとしたメロディに「ピョイーーーーン!」「ポョーーーーーン!」「チィーーーーーン…!」「コロロロロロロロ……」とふざけ散らかした謎の音がふんだんに組み込まれた狂イントロ。開始20秒でもうすで恐怖、この先の展開を考えると小便が止まらない

 

Aメロ「逃げ出した夜の往来 行方はまだ不明」

 

Jazzyなメロディに合わせてサラッと踏まれる韻…あまりにもエロで、クール、例えるなら仕事もバリバリできて立ち振舞いもスマートで部下にも優しい、なのにどこかミステリアスな雰囲気もあわせ持つイケメン

 

…と思いきや、

 

Aメロ「困っちゃったワンワンワン♡」

 

突然のワンワン。『いないいないばあっ!』のテーマ曲か?なんだこのギャップは。カッコイイ+カワイイ=「聴く吉沢亮」だった。

 

「兄弟よ」「どうかしよう」「考えない様」

「どうしたい」「いらない」

「情景」「不明」

「よう相棒」「もう一丁」「しようよ」

「目指すのは」「メロウな」

「睡蓮」「サイレン」「境界線」

「愛し合う様に」「しようぜ」

 

休むことなくブチ込まれる韻のガトリング、気持ち良すぎる。もっとくれ…アレンジも昇天必至の快楽。ロックかと思えばジャズ、ジャズかと思えばポップス、あらゆる要素が次から次へと耳に、脳にからだじゅうに流れ込まれる。米津の流しソーメン。そして…

 

サビ「たった一瞬のォ〜〜!この煌めきをォ〜〜〜!食べ尽くそう二人でくたばるまでェ〜〜…!!」

 

さ、サビーーーーー!!!圧倒的なサビーーーー!!!か、感電んんんーーーーー!!!って感じのサビ!!!ウワーーーー!!!な、、、なんだこの曲ーーー!?!?さ、最高すぎる!!!Cメロ後の無音!!!し、心臓止まるかと思いましたーーーー!!!ラスト「お前はどうしたい?返事はいらない」で返事する間もなく曲終わるの最強ーーーー!!ヤバヤバのヤバ!!

な、な、あ、あ、アアア、ァ、ア、、、、ボガーーーーーン!!!!!!

 

 

星野:僕は撮影の最中に聴かせてもらったのですが、詞も含めてものすごく『MIU404』の世界観を大事にしてくれたというか、ドラマで流れることをすごく意識して作られている曲だなと思いました。

綾野:彼が1話と2話の台本を読んだと連絡をくれて「めちゃくちゃ面白かった!これは最高の曲書くよ」と言ってくれて、だから志摩と伊吹が動いている風にしか思えないですね。 

綾野剛、友人・米津玄師が「“最高の曲書くよ”と言ってくれた」…「感電」に星野源も感動<MIU404 インタビュー後編> - モデルプレス

 

…さて、インタビューで主演の2人がこう語ってるように、ドラマ『MIU404』に触れずしてこの曲を語ることはできない。

『アンナチュラル』における『Lemon』のように野木亜紀子のドラマと米津玄師の音楽の親和性の高さには他のタイアップにはない特別なものがある、その秘密について紐解いていきたい。

 

まず『MIU404』、遡っては『重版出来!』『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』『獣になれない私たち』など…野木亜紀子作品すべてにおける共通した特徴に「ユーモアからシリアス、陽から陰への切り替えの速さ」がある。

登場人物たちの軽妙なやりとり、ギャグやパロディ、何気ない日常など「陽」のシーンが多く、老若男女誰でも親しめるキャラクター的なポップさがありつつも、一方でひとりの人間が必ず抱いている「怒り」「悲しみ」「後悔」「恐怖」といった「陰」も容赦なく見せる。ホッとさせたかと思えば次の瞬間、いきなり息を呑ませるようなシリアスなシーンが始まり視聴者の心を振り回していく。

 

例えば、『アンナチュラル』5話「死の報復」で主人公ミコト(石原さとみ)たちUDIラボのメンバーが死の真相を調べるため中堂(井浦新)の家に集まり作業をするシーンがあった。それまでは他人と深く関わろうとせず自分への詮索をなによりも嫌がっていた中堂だったが、メンバーの明るさやミコトの仕事に対する真摯さに少しずつ心を開いていく。酔いつぶれて寝てしまう東海林(市川実日子)や六郎(窪田正孝)に呆れつつもツッコミを入れる中堂とミコト…ほのぼのとした雰囲気はまるで文化祭の準備を放課後にするクラスメイトのよう。UDIラボがひとつの「チーム」になった瞬間だった…かに思えた。

その数分後、真相を明らかにした中堂が遺族の青年に復讐を教唆するような囁きをし、結果として青年は犯人の女を刃物で刺してしまう。

開いたはずの心は開かれてはいなかった。表面ではわかり合えた気になっても人の心はそんな単純なものではない、ということを突き付けてくる。

 

『MIU404』でもそれは変わらない。2話「切なる願い」でメロンパンの移動販売車に扮した警察車両に乗る志摩(星野源)と伊吹(綾野剛)がさんざん「メロンパンの値段にいくら出せるか」で揉めた直後、殺人の容疑で逃走中の加々見(松下洸平)と思われる人物が乗った車を発見する。加々見を追跡する2人だったが、動向を探るうちに加々見本人の過去や新たな人物「岸」の存在が明らかになり、人質にされていた田辺夫婦や伊吹すらも「加々見は犯人じゃない。自分の無実を証明するために逃げてる」と言い切る。誰もが「加々見は犯人ではないのでは…?岸が真犯人なのでは…?」と思い込んでいた。

…が、数分後その願いは簡単に裏切られる。

加々見の痛みを伴う過去や、いかにもな人物の浮上によって視点がボヤけ、真相を遠ざけてしまう。伊吹も田辺夫妻も、そして我々視聴者も。だからこそ志摩が言った「人は信じたいものを信じるんだよ」という言葉が深く深く突き刺さる。

 

この「ユーモアからシリアス、陽から陰への切り替えの速さ」が野木亜紀子作品の大きな魅力であり、視聴者を飽きさせない「ワザ」なのだが、それは米津玄師の音楽にも共通する部分がある。

前半で前述した通り、メロディのアレンジも歌詞の言葉選びも遊び心たっぷりで、かわいらしく聴いていてクスリとなる「陽」の部分と、生きていく上で決して避けて通れない「死」や「孤独」といった「陰」の部分の両方を隠すことなく表現している。

ジェットコースターのようにめまぐるしく変わる曲展開に加え、片面だけでは決して語ることができない世界観、それはまさに野木亜紀子が描き出す作品そのもの。

だからこそ、『アンナチュラル』と『Lemon』の関係性と同じく、片方を深く味わうことでもう片方の世界観がより広がっていく。「ここぞ!」というドラマのクライマックスで鳴らされる米津玄師の音楽によって視聴者の心を鷲掴みにされる。曲とドラマが別々の「+」で繋がれた関係ではなく「=」、ふたつでひとつの関係性になっている。野木亜紀子から米津玄師、ドラマから曲へとまさに「感電」していく。

 

さらにもっと深く掘り下げると、歌詞の内容自体が『MIU404』に寄り添ったものになっている。随所に散りばめられたモチーフ、例えば1番の「犬の鳴き声」2番の「猫の鳴き声」、これは伊吹(綾野剛)と志摩(星野源)のキャラクター的個性を表しているのか、それとも童謡『犬のおまわりさん』にならって犬=警察、猫=被害者としているのか考察は尽きない。また、Cメロの「肺に睡蓮 遠くのサイレン 響き合う境界線」の「肺に睡蓮」がボリス・ヴィアンの小説『日々の泡』(主人公の恋人が「肺の中に睡蓮ができる」という病気にかかってしまう。睡蓮は成長し、最終的に死んでしまう)から着想したものだとすれば、「遠くのサイレン」は救急車、そして「響き合う境界線」というのは生と死の境界線…これをふまえドラマの内容に改めて着目すると2話で明らかになった「志摩は相棒を殺した」の本当の意味や、志摩が伊吹に言った「お前は長生きしろよ」ともかかってドラマが進むにつれ曲に込められた真意が……

 

 

…とか色々バカみたいに考えてたんですが曲聴いてたら最高すぎてどうでもよくなってやめました〜〜〜!!めんどくせぇ!!頭で聴くんじゃねぇ感じるままに聴け!!だって曲名『感電』だからなオラ!!!