ムーミンで一番好きなキャラは誰ですか?
やっぱり主人公のムーミントロール?それともダンディなロマンチストのムーミンパパ?いつもおおらかで優しいムーミンママ?元気でいたずら好きなミイ?自由を愛するスナフキン?ムーミンの恋人スノークのおじょうさん?それとも臆病者のスニフ?
…俺がそのキャラと出会ったのは去年、ムーミンパークのお土産でぬいぐるみをもらったのがキッカケだった。
なんだこいつは
名は「モラン」
子供のころの再放送アニメでたまに見る、くらいでしかムーミンを知らないムーミンニワカ勢の俺にとってモランは見たことも聞いたこともないキャラだった。
ずんぐりむっくりとした図体…焦点の合ってない目…デカい鼻…突き出た歯…かわいらしいムーミンキャラのなかにあって全くかわいくない見た目に、正直、最初は気持ち悪さしかなかった。
しかし、毎日モランと家で過ごすたび、モランのことが少しずつ気になっている自分がいた。モランは「ムーミン」という作品にとってどういう存在なんだ。モラン、お前はいったい何者なんだ…
ムーミン谷の住人たちから恐れられる、女の魔物。
お……女……?え……女なのコイツ……?ご、ごめん…なんか勝手なイメージでめちゃくちゃオッサンだと思ってた……え、え……?
モランはいつもひとりぼっちで、冷気をまとっていて、彼女が歩くと草木は凍り、地面には霜が。その姿は岩のように巨大で、ぼろぼろのスカートのすそを引きずって、どこからともなく現れます。
「いつもひとりぼっち」……?か、かなしすぎる……ムーミンのあのほのぼのとした世界観にあってひとりぼっちだと……?
し、小5の俺かよ…クラスのリーダーだったハヤトに絶交食らってクラスメイト全員からシカトされてたあの地獄の1年をモランはずっと過ごしてるってのか……?
彼女はランタンの明かりや冬のかがり火など、明るく、温かいものに引きつけられる傾向があります。
小6になり、クラスの信頼を取り戻すために必死こいてハヤトというかがり火にすり寄っていた俺……モラン…君は……
モランについてよく知る者はおらず、誰もモランのことを好きではありません。
誰にも理解されず…誰にも好かれない……クラスメイトの気を引こうと休み時間に「オリジナルの迷路」を自由帳に書いても誰にもやってもらえなかったあのとき…俺にだけ「プロフィール帳」回ってこなかったあのとき……
そう…モランは俺だった。モランは俺で俺はモランだった。モランのことを知れば知るほどまるでバラバラになっていた2つの心がようやく1つになれたような、そんな感覚さえあった。
…それからというもの、俺はモランに釘付けになった。毎日、毎日モランのことを考えた。モランの見た目を「気持ち悪い」「かわいくない」と言った自分を、モランのことを「オッサン」と言った自分を心から恥じた。俺は一人の乙女の心を傷つけてしまった。最低だ。俺はどうしたらいい、どうしたらモランを幸せにできる…?
モラン、君のそばにいたい、モラン、君を守りたい…
抑えきれない気持ちがふつふつと湧き上がってきた…
もしも、俺とモランがクラスメイトだったら…俺は……君を……
ー
…君はいつも一人だった。教室の隅で、クラスの1軍の武見(ムーミン)や砂名(スナフキン)がふざけているのを遠くからただ見つめていた。そんな君を俺は無意識に目で追っていた。
ある梅雨の放課後、いつものように退屈な授業を終えて自転車で家路に向かっていた。ふいに、突然の夕立ちが降り注いだ。
ザァァアアァァァ………
俺「うわ…びしょびしょだ…最悪…」
たまらず近くの公園のベンチに避難した俺。するとベンチに佇む一人の影がいた。そう、いつも一人でムーミン達を見つめていた、遠藤萌蘭(モラン)だった。
俺「あ…お、おーー!たしか、同じクラスの!遠藤、だっけ?」
そんな言葉とは裏腹に、心が躍っているのがわかった。
ザァァアアァァァ………
俺「……」
モラン「……」
な、なんか話さねーと……
俺 「え、遠藤てさ、いつも、一人、だよな!仲良い女子とかいねーの?」
モラン「…関係ないでしょ、アンタには」
俺「一人で、いっつも武見たちのこと見てるよな!」
モラン「そっ、そんなこと…!」
俺「もしかして武見のこと好きとか?」
モラン「………」
俺「え、遠藤と武見が!?ははっ、似合わねー!」
…咄嗟に出てくるデリカシーのない言葉たちに本当に後悔した。いつもそうだ。強がって、ごまかして、他人を傷つけて。そんな自分が嫌になる。
モラン「うるさいわね……わかってるわよ…そんなこと…」
俺「お、おもしれー。じゃあ俺が、武見と遠藤が上手くいくように手伝ってやるよ!」
モラン「え…?」
ピエロでもいい。それでもただ君と一緒にいたかった…
それから決まって雨の日の放課後になると、俺とモランは同じベンチで同じ時間を過ごした。武見とモランがどうやったら仲良くなれるか作戦を立てていた。くだらない作戦だ。偶然を装って武見とモランを2人きりにするとか、連絡先を交換するとか、そんな幼稚な。学校では一言も話さない、目も合わせない。秘密の関係。それでも良かった。雨の日が本当に楽しみだった。
モラン「武見くんがおはようって言ってくれたの!」
モラン「今日ね!武見くんが連絡先交換しようって!」
少しずつ、でもたしかに縮まっていくモランと武見の距離。モランから出る武見の話を聞くたびに胸の奥がズキッと痛んだ。でもこれでいい。そう自分に言い聞かせた。
そんなことが1ヶ月続いた。その日も雨だった。
モラン「……」
俺「どーした?元気ねぇじゃん?」
モラン「……」
俺「遠藤…?」
モラン「…今日…武見くんと偶然帰りが一緒になって…わたし…自分の気持ちが抑えきれなくて…武見くんに…言っちゃったの…好きです…って…」
俺「えっ……」
モラン「武見くん…他に…好きな娘、いるって……」
俺「…アイツ…遠藤を泣かせるようなマネしやがって…絶対に許さねぇ…」
モラン「ウッ…ヒッグ…ヒッグ………」
俺「もう…もう大丈夫だ…遠藤…俺が…俺がいるから……」
モ、モラン…モラン…お…俺……
計画通り
そうだァア!!!武見に他に好きな女がいることをォ!俺はすべてェ!最初からァ!なにもかも知っていたんだよォオオオオオ!!武見のことを見つめてるモランを見かけたとき、心から「この女イケる」と思ったんだよォ!!だから偶然を装い雨の日にモランに近づいたァ!
そうだ…武見とモランの帰り道が一緒になるように仕込んだのもォ!!!すべてこの!!俺!!俺は雨の日のたびに、モランに直接的な言葉は使わずとも「武見が好きなのはモラン」という嘘の暗示を会話の中に少しずつ入れ込んでいたんだよォオオ!モランが武見と2人きりになったときに告白するのはもはや必然!!!!そして武見にモランがフラレれば傷ついたモランは必然的に一番近くにいるこの俺のモノになる!!!!フフフフフフフ、、フフ、フフアハハハハハハハアアーーーーーーー!!!!!
モラン「…いつも君は優しいね…どうして…?」
…だ…だめだ…まだ笑うな…あとひと押し…あとひと押しでモランは…俺の……
俺「ねぇ…モラン……」
モラン「えっ……」
俺「こっちむい
ドガァァアアアアアアァッッッ!!!
そのとき、頭に強い衝撃が走った
俺「ア……アア………」
薄れゆく意識のなか、髪をひとつに留めた、目つきの悪い女がこっちを睨みつけているのを、見た……
第2話「ミイの裏切り」to be continued…