Sexy Zoneのアルバム『XYZ=repainting』に収録されている大名曲『名脇役』のヤバさについての論文
「最高の失恋曲」とは
例えばSMAP『オレンジ』、KinKi Kids『雨のMelody』、嵐『恋はブレッキー』、関ジャニ∞『大阪レイニーブルース』、SixTONES『マスカラ』、前提として「アイドルの歌う失恋曲」というのはすべからく素晴らしいんですが、その一番の理由は
「お前らになびかねーとかどんな女…?」
という「アイドル」の立場を逆手にとった心理的トリック。息をするだけでファンを狂わせるアイドルに「恋が実らずに苦しむ心」を歌わせる。ここに胸をザワつかせるポイントがあるのです。
失恋曲には「歌う人間の『振り幅』があればあるほどより心に響く」という『振り子の法則』があります。モテない人間のラブソングではもはや人の心は動かない。
顔もいい、運動神経もいい、性格もいい、人望も金も腐るほどある、そんなパーフェクト超人がどんなに努力しても1ミリもなびかない女。叶わない恋。ここにわれわれの心は狂わされてしまう。この圧倒的な違和感こそ、アイドル失恋ソングの真骨頂。花沢類、中津秀一、赤星栄治。
そして『名脇役』に登場する「君」こそ「お前になびかねーなんてどんな女だよ…」の完全究極体。「君」は好きでもない男に笑顔を振り撒く最凶最悪の魔性、人の恋心を吸い血肉とするサキュバス。
サビのフレーズを引用しましょう。
なんにも知らないくせにして「どうしたの?」なんか聞いてくんな
他でもない君でこんな始末になってるんだよ
完全に火曜10時ドラマのヒロイン。俺が、ヒロインと主人公の「ケンカ」という名のイチャイチャを目撃して落ち込んでるところにひょこっと現れて、
「どうしたの…?元気ない…?」
とか上目づかいで言ってくる世界一のバカ。そのかわいすぎる顔で二度と俺に話しかけんじゃねぇ。壊れるまで抱きしめたろか?
俺はサビのこのフレーズを聴いた瞬間、俺は着けていたイヤホンをブチ破り、着ている服を全て脱ぎ捨て、窓を開けて、こう叫びました。
「すっ、好きィイイイイイイイイアァアアアアアアア!!!!!!!」
と。そう、好き、宇宙一好き。こんなもん好きになるに決まってる。かわいさ余って憎さ百倍余って愛おしさ八兆倍。だからこそ、俺はこいつらを全力で駆逐しなければならないのです。
こういう人間が集団の中に一人でもいる場合、その輪は一瞬で崩壊する。こいつ以外の人間は毎日気が気じゃありません。あらゆる秩序を乱し者、生態系を狂わせし者、それが
『無意識に上目づかいで「どうしたの?」とか聞いてくる女』
なのです。歌詞のとおりこいつは「僕」の好意にまったく気づかない。気づく気配すらない。男友達とふざけてると見せかけてその後ろに座ってる「君」にウケたいと思ってるとか、席替えのとき「目悪いから前の席座ってもいいすか?」とか言いながら、ただただ「君」の近くの席死んでも取りたかった気持ちとか、まったく気づいてない。
ゆえに最強。気づくような人間ならセクゾは最初から好きになってない。セクゾをなめるな。一般人がアイドルを落とす唯一の方法、それは
「アイドルに気づかない」
これのみ。例えば、カフェで偶然アイドルと相席になってしまったとき、その存在に気づいた瞬間にもう負けてる。
『名脇役』に登場する「君」は周りの客がアイドルに気がついてキャーキャー言ってるのを尻目に
「え…誰…?」
とか言いながらYouTubeでフリースタイルラップバトルとか見てる。アイドル全無視、そういう女。そしてそのことに逆に気づいたアイドルが
「こ、この女…俺のこと知らねーのか…?許せねぇ…ぜってー振り向かせてやる…」
と、なりアイドルの恋がはじまる。が、当然このアイドルの恋は絶対に叶うことはありません。なぜならこの女には「幼少期に共に将来を誓い合って最近再開した全然気が合わない幼なじみ」がいるのだから。
こういう女にモテるのは同じように「モテるのに無自覚なモテる男」のみ。大して身なりも気使ってないし、口悪くてぶっきらぼうで何考えてるかわかんねーのに、なぜか雰囲気はムンムンにある男。
風は雲に言い寄らず、雲は風に言い寄らず、ただ風と雲はともにある。最初からすべてが決まってたかのように二人は一つになる。そこには誰も立ち入ることはできない。
そしてアイドルは最終回で夢を追うために海外へ行くこの男を諦めようとしてる女を空港までバイクで送り届ける役割を担うだけの「親友」という名のピエロになる。『名脇役』とはそういう曲。
そしてそんな曲をSexy Zoneに歌わせる、はっきり言ってこれは「大罪」です。
佐藤勝利の透明感のあるガラスのような声にほだされ、松島聡の優しくも切ない毛布のような声に包まれ、マリウス葉の純粋で幼さの残る天使のような声に癒やされ、菊池風磨の感情を爆発させた太陽のような声に焼かれ、中島健人の繊細で鋭いナイフのような声に刺される。
「アイドル」というモテるために存在する「主人公側」の人間だからこそ、そこになびかないこの曲には圧倒的な説得力があるのです。
天下のSexy Zoneを名脇役にさせた『無意識に上目づかいで「どうしたの?」とか聞いてくる女』絶対に許さねぇ。絶対に惚れさせてやるよ…