映画『夜明けのすべて』見たんですが、死ぬほど面白ぇ……でもなんで面白いのかよくわかってない。知らん魚の寿司食ったのかと思った。
例えば直前に見たドラマ『地面師たち』と比べたら、マジでなんも起こらないんですよ。笑福亭鶴瓶の息子が10億円騙し取られないし、綾野剛が女僧侶とパワセしないし、北村一輝がクスリでラリって「ルイヴィトーン!!!」って叫ばないし、ピエール瀧がことあるごとに「もうええでしょう」って話遮ってこないし、小池栄子が丸坊主にならないし、トヨエツが「最もプリミティブで…」とか言いながら北村一輝の顔面踏み潰さないし、山本耕史が超高層ビルの最上階でパワセしながら外見て「あれが112億で落とした俺の土地だ!」ってドヤらない。殺しも裏切りもなければ、普通の恋愛すらない。
上白石萌音演じる藤沢さんと松村北斗演じる山添くんは、それぞれPMSとパニック障害という疾患を抱えていた。最初はまるで分かり合えない二人だったのだが、あることをキッカケに少しずつ距離が縮まっていき……のにマジでなんもなんねぇこいつら…
そんな映画いつもの俺だったら、
「カァ〜〜〜〜ッ!お前らぜって〜好き同士だろ!??!好きなんだろ!??甘酸っぺェ〜〜〜〜〜!!さっさ付き合っちゃえよ〜〜〜〜ッ!!んもーーーーッ!じれってぇ〜〜〜〜〜!!肩を抱けよ〜〜〜〜ッ!キスをしろよ〜〜〜〜ッォオオ!あ!それっ!マウス、トゥ、マウスッッッ!マウス、トゥ、マウスッッッ!!ディーーープキッス!!ディーーープキッス!!ヒュ〜ヒュ〜〜〜〜〜〜!!!」
とか叫び倒してるのに、この映画に関しては1ミリもそんな感情が沸かなかった。
それどころか、画面の節々から「恋愛なんか死んでもやるかよ」という不動明王よりも強い意志を感じて、なんも言えなくなった。二人は、まるで風が草木にささやくように、そっと寄り添っていく。
それを最も感じたのが、仕事終わりに山添の家でダラダラするシーン。
藤沢「もう帰ろうかな」
山添「(あくびしながら)駅まで送ってきますよ」
藤沢「ねぇ、これもらっていい?」
山添「どうぞ」
藤沢「ザラザラザラーーッ!」(ポテチ袋ごと口つけて直食い)
藤沢「…ウン」
たったこれだけのシーンで「こいつらマジでなんもねぇじゃねぇか」というのが全てわかってしまう。
成人の男女が?夜に?密室にいて?帰り際にやることが?キッスじゃなくて?ポテチのラッパ食い?このシーンを見た瞬間あまりの衝撃にイスから転げ落ち、しばらく天を仰いでいた。
マジでなんもねぇ。いや、なにもないのに、ある。この二人にはこの二人にしかわからない絆が確かにあった。
そんな二人を演じた松村北斗と上白石萌音は本当にヤバかった。ヤバくなさすぎてヤバかった。特に前半の二人は街ですれ違っても絶対に気づかない自信がある。松村北斗?上白石萌音?え?出てた?誰役?と言いたくなるくらい、マジで「そのへんにいる人」だった。それが本当にヤバかった。二人を見ている俺の心は完全に「ぬるめの風呂入ってるとき」だった。
最終的に、二人はまるで、草木から落ちた葉が風に運ばれるように離れていく。
藤沢「私、来月で会社辞めることになった」
山添「あっ、そうなんすか」
藤沢「うん、地元帰って今度面接受けるんだけど」
山添「へぇ〜、どんな会社なんすか?」
藤沢「興味ある?」
山添「ありますよ一応」
藤沢「地域情報誌作る会社」
山添「へぇ〜」
藤沢「取材とか広告営業とか色々やるみたい」
山添「あぁ、面白そうですね」
藤沢「うん」
山添「あっ、山添くんどうするの?」
藤沢「あ〜、ここに残ることにしました」
山添「そうなんだ」
これだけ。ドラマチックな別れのシーンとかマジでない。
藤沢「山添くん…また…会えるかな…?」
山添「会えるでしょ…藤沢さんが怒ったら…俺がすぐ助けにいきますよ…」
藤沢「ほんとに…?ぜったい…?約束だよ…?やくそ………んッ…」
kiss……………
みたいな、そういうしゃらくせぇのいっさいありませんでした。
冒頭でも書いたとおり、殺しも裏切りもない。ただ苦しみや悲しみを抱えた人々の生活だけがそこにあり、人との出会いをきっかけに、それぞれがほんの少しだけ前に進む。それだけの映画。それだけの映画に俺の心は芯からあったまった。
俺は地面師なんかじゃない「ただの人」だということをわからされてしまった。でも、それでいい。生きてさえいればいい。ただの人として。夜明けが来るまで。
ハリソン山中にもこの映画見せてぇ…