映画『ファーストキス 1ST KISS』坂元裕二の濃縮還元でした。
大豆田とわ子であり、カルテットであり、最高の離婚であり、さらには『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』であり、『花束みたいな恋をした』、そんな「坂元裕二恋愛ベスト」を2時間にギュッとしぼって出てきた液体を、頭からブッかけられました。
ラブストーリーって弓矢みたいなもんで、どれだけ地獄を地獄として描き観る人間のストレス値を蓄積させられるかで反比例して幸せな瞬間の勢いが増すんですけど、坂元裕二はその「タメ」が超強い。
もちろん恋に落ちた二人を描く時のキュン…♡の素晴らしさもそうですが、それ以上に「Majiでwakaれる5秒前」逆・広末涼子状態の冷めきったカップル、坂元裕二本人の言葉借りるなら「愛してるけど好きじゃない」状態を描くの上手すぎる。
唐揚げに勝手にレモンかけられる、思い出の本を鍋敷きに使われる、電気点けっぱなしで家出る、扉の開け閉めがうるさい…「その場では怒りませんけどあと10回やられたらブチギレる」みたいな小さい小さいストレスの積み重ね。仕事や家事に追われ、自分でも自覚がないくらいほんの少しずつ消耗していく毎日、そこから生じる価値観のズレ、そして爆発。その流れをあまりにも熟知してるんですよ。
まさか、どこかに坂元裕二に自分たちの生活を24時間いつでも見られることで生計を立てている「坂元裕二専用夫婦」が存在しており、坂元裕二は脚本に困ったらその夫婦をモニタリングしてるのでは…?
とさえ思ってしまう。その強度の高さ、もはや感動超えて恐怖。
特に「自分の思い通りにいかなくてイライラしてる男」を描かせたら間違いなく日本一です。
例えば、いつかこの恋〜でプロポーズを拒否され、音(有村架純)の大切にしてる仕事や生活を「あんな」と吐き捨てる朝陽(西島隆弘)、花束〜で絹(有村架純)に「楽しく生きたい」と言われ「じゃあ結婚しようよ!結婚しよ?俺頑張って稼ぐからさ家にいなよ働かなくても家事もしなくても毎日好きなことしてればいいじゃん」と最悪プロポーズする麦(菅田将暉)、カルテットで真紀(松たか子)との理想と現実のギャップに辟易して居酒屋で「愛してるけど好きじゃないんだよ」と吐き捨てる幹生(宮藤官九郎)
しかも全員「全然キレ慣れてない優しくて良い人間」なのがキツい。相手のことを思いやることができていたのになぜここまで変わってしまうのか、いや優しいからこそ、良い人間だからこそ、一個ボタンを掛け違えただけでこうなってしまったのかと坂元裕二の喧嘩シーンを見るたびに絶望でゲロ吐く。
そんな坂元裕二の描く「自分の思い通りにいかなくてイライラしてる男」が大好きで俳優全員にやってほしいと思ってるんですが、ついにそれが松村北斗で叶いました。
あんなにも愛したはずの相手に「おはよう」も言わない、触れようともしない、勝手に自分の部屋にベッド買う、自分の洗濯物だけ洗う、別々の朝食、舌打ち、ため息…特殊メイクの老け顔だけでなく、内側から滲み出る悲壮感。トップアイドルとしての側面がどこにもない、どこからどう見ても離婚寸前ギトギト皮脂まみれ加齢臭プンプンのオッサンがそこにいた。だからこそタイムリープで再び出会う過去の松村北斗の輝きは「太陽」という他なくロープウェイで目焼かれました。
さらに坂元裕二は「無自覚に人を見下すジジイ」描かせたら日本どころか世界一。いつかこの恋〜の柄本明、小日向文世、問題のあるレストランの杉本哲太、吹越満、大豆田とわ子のスカパラ谷中…「なるべく苦しんで地獄落ちろ」と笑顔で言いたくなる愛すべきクソ野郎ども。
こいつらがクソであればあるほど、主人公たちがちょっと幸せそうにしているだけで、胸が締め付けられて真っ二つにちぎれるくらいの破壊力がある。
映画ファーストキスで言えばリリー・フランキー。吉岡里帆の父親役なんですが、飲めない駈にガブガブ酒を飲ます、朝早く起こしてジャムのフタ開けさせる、足りない冊子を圧かけて持ってこさせるなど、仮に吉岡里帆と一緒になってもこいつがセットで一生ついてくるんかいと思うと、口から肛門出ます
…と、そんな地獄を経て、松たか子と松村北斗の
キス、、、
めっっっっっちゃエロッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!
いので、全員映画館で観てください