いやっ、ちょっ、ちょっとまって。話が、話が違う。
いや俺、最初これ「連ドラ」だと思ったんですよ。
くたびれたどうしようない売れない中年画家・御所(風間俊介)と、最悪の家庭環境から夢を諦めかけている高校生・春文(齋藤潤)。
まるで違う二人が、「絵」と「コンビニバイト」という共通点で繋がっていく…
果たして二人は夢を掴むことができるのか!?!?青春!?ボーイ・ミーツ・オッサンの物語、ここに爆誕!!!!!!!
23分後
お、終わったーーーーーーーーーーー!?!?!?!?!?!!!!
普通に1話完結だった。絶望。
だが、たった23分。1話で完結するドラマが、朝ドラ全話みた以上の濃さだった。
こんな、こんな物語があっていいのか。心グチャグチャになった。つらい。くるしい。かなしい。ゲロ吐きたい。俺はもうしばらく二人のことしか考えられない。
説明します。
まず、出だしが最高。1分でこの2人がどう言う人間なのか、一瞬で理解できます。とんでもないスピード感。
コンビニに来店した有名人にサインをもらう春文
御所「今の、きよ…すあきよし?」
春文「そう。元プロ野球選手の清須ですよ」
御所「ほぉーーーん…そんなにサインが嬉しいんだ(自分の名前を書こうとする)」
春文「な、なにしてんすか御所さん!?」
御所「だってサインがほしいんでしょ?」
春文「価値がなくなる」
御所「価値、価値ねぇ。じゃあそのノートの価値はいくらだっていうの?」
春文「に、2000円くらい?」
御所「定価200円の中古の数学ノートを2000円ねぇ…じゃあその2000円ってなんの2000円?
春文「サイン代でしょ…」
御所「ブーーーーー不正解。僕はねぇ、そのノートが2000円以上になる方法を知ってるよ?春文くんがホームラン500本打てばいいんだよ、ハハハハアアアアア……」
ひねくれたモノの見方しかできない御所。どこからどう見ても限界の人間だ。だが、絵に対してだけは「真剣」だった。
商店街で一人、誰に見向きもされず絵を描き続ける御所。
春文は、そんな御所の絵に惹かれ、二人の距離は少しずつ縮まっていく。御所は春文に絵が上手くなるコツを教え、商店街で二人並んで一緒に絵を描き始めるようになった。
と、とうてぇ…尊ぇよ…ああ…これから二人の青春が始まっていくんだなぁ……多分それぞれの「成功」を掴み取るんだろうなぁ…
で…なんか中盤ではちょっとすれ違っちゃったりしてさぁ…でも結局仲直りしてそれまで以上の絆で結ばれちゃたりさぁ…
春文くんなんかはまだまだ若いから、恋愛とかしちゃったりさぁ…それで御所さんは、ひねくれながらも核心ついたアドバイスなんかしちゃってさぁ…あぁ…想像するだけで、おもしれーーー!!!!!!!
わくわくっ!!!わくわ
終わりだよもう。はい、終わりでーす。
クソ、この世界はクソ。ガチのクソ。としか言いようがない。
御所は春文に、何度もする。「価値」の話を。
春文が、御所の絵を買いたい。と言った時も
「2003年、1万円の価値しかないと言われた絵がオークションに出されて、6600万円になったんだ。なんでだと思う?作者がゴッホだって判明したから。それでこの絵の作者は僕なんだよ。だから、お金はいらない」
その絵を春文が(春文のせいではないが)汚してしまった時も。
「この絵がこんなふうになったのは君のせいじゃない。絵の価値は作者の価値なんだよ」
御所は「自分には価値がない」と呪いのように吐き続けていた。なら、御所が絵を描く理由は何だったのだろうか?
しかし、そんな御所に春文は憧れ、なんの曇りもないまっすぐな瞳で、彼を見つめていた。
「俺さ、たぶん俺、御所さんの絵好きだわ」
「この絵、絶対大事にします。だからサインしてくれません?」
「そういえば俺、この絵のお金払ってなかった。とりあえず、これ。これ、俺の今の絵の全財産。頭金ってことで、あ、あとは9千9百84円払います。分割で払います。合計1万1円。それで御所さんがゴッホを超えます」
御所にとって、それはあまりにも眩しい。眩しすぎたのかもしれない。
こんなこと言ったらヒドいかもしれないが、御所とは違い、春文にはまだまだ未来も希望もある。たしかに家庭環境は最悪かもしれない、だが、やりようはある。
だからこそ、御所は春文になにかを託したのかもしれない。
「君はさ、ちゃんと売れる人になりなね」
「ヒトラーは、画家だった頃は絵も売れず評価もされなかったけど、彼の絵は今、何千万円で取引されてんだよ」
「春文くん、この絵きみにあげるよ。この絵はきっと価値が出る」
御所は春文に少しでも金を遺しておきたかったのかもしれない。俺が死んだあと、少しでも価値が出て、それが春文くんの未来への手助けになるのなら、そんな想いがあったのかもしれない。
いや、なかったのかもしれない。そんなことは1ミリも思ってなかったのかもしれない。
春文とかどうでもよく、ただ「なにを描く」ではなく、「誰が描くか」でしか判断されないこの世界に絶望しただけの話かもしれない。
誰も、御所の本当の気持ちはわからない。
そもそも23分しかない時間の中で、御所の描写は極端に少ない。コンビニバイトの姿と、絵を描いている姿しか見せず、他は春文の葛藤や成長のみに当てられている。
だからこそ惹き込まれる。そして風間俊介は、この御所という人物を少ないセリフながら、人間の闇を、絶望を、とんでもない奥行きで表現していた。
これや…これこそワイが見たかった闇の風間俊介……兼末健次郎…三崎文哉…勝野ユウジ…ああ…俊ちゃん…俊ちゃん…俊ちゃん…俊ちゃん…
そして齋藤潤よ…「大人に振り回される少年」を演じさせたら今一番アツイ俳優・潤。あまりにも最高。「あッ!なついたッ!」と分かる瞬間が愛くるしすぎる。潤よ…もっともっとくれ…もっとオッサンと絡む潤、くれ…
1話23分完結ドラマ『217円の絵』創作者、全員見てください。そして心グチャグチャにされてほしい。