野田洋次郎さん、SixTONESに曲を提供していただき本当にありがとうございました。
まず、私と野田洋次郎さんの関係性について少しお話させてください。
私と野田洋次郎さんは、なにを隠そう、まったくの「無関係」
しかし、私と野田洋次郎さんには切っても切れない縁があります。
10年以上前に結構イイ感じになった「エリちゃん」という女の子がいました。彼女はすごく柔らかい雰囲気の、虫も殺せないような優しい女の子でした。
そして彼女は野田洋次郎さんのバンドRADWIMPSの大ファンでした。しかし、私はその時は野田洋次郎さんどころか、RADWIMPSの「ラ」の字も知りませんでした。
そんな私が彼女に勧められて聴いたのが『へっくしゅん』そして『DADA』でした。
タイトルだけ見て私は、なんてかわいい曲名♡と。ゆるふわ系ポップバンドかな?キュンキュンラブソングかな?こんなん、もう、ほぼ告白だろ!と思っていたんです。
再生ボタンを押しました。
へっくしゅん「マジでもう死にてぇ笑 死んじまえ お前とか是非とも死んじまえ毎晩ティッシュとともに眠るベイビー精子たちもろとも消えちまえ」
DADA「生きてる間すべて遠回り すべて大回り なのにそれなのに 近道探してみて 小回り お巡りに見つからないようにばかり あげくの果ては拝み 神頼み 少しでも楽に 他人よりも前に 叶わぬと知るや否や嫌みひがみ鬼畜の極み」
エリちゃん?
私は再生ボタンを止めました。そして恐怖で彼女から逃げました。
それから数年後、RADWIMPSは名実ともに国民的バンドになっていました。映画『君の名は』主題歌の『前前前世』が大ヒットを記録。
君の前前前世から僕は 君を探しはじめたよ
そのぶきっちょな笑い方をめがけて やってきたんだよ
曲のあまりの爽やかさに、私が知ってるRADWIMPSとは別のバンドなのか?とすら思いました。エリちゃん、こっちを教えてほしかったよ。
しかし、RADWIMPSを少しずつ知っていく中で気づいたのです。攻撃的な曲、気持ちの悪い曲、怖い曲、爽やかな曲、綺麗な曲、そのどれもがラッドであり、野田洋次郎なのだと。
そんな野田洋次郎さんが大好きなSixTONESに楽曲提供をする。正直な話、期待半分、恐怖半分でした。
どの洋次郎なんだ…?と。
俺がめった刺しにされた『へっくしゅん』『DADA』『おしゃかしゃま』のような凶暴な洋次郎なのか…『狭心症』『五月の蝿』のようなゲロ確定の狂気の洋次郎なのか、『ラストバージン』『なんでもないや』『愛にできることはまだあるかい』のようなピュア洋次郎なのか、『有心論』『マニュフェスト』『前前前世』『ふたりごと』のような爽やかの皮かぶった激重洋次郎なのか…
どれも聴きたいが…
どれ洋次郎なんだ…
ジェシー「エェイ…」
京本大我・ジェシー「俺らどこまでェ…?行けばたどり着いたぜェ…?なんて言えるかねェ…?まァ今は見当もつかねぇェエエ?」
京本大我・松村北斗「ただこの道突き進みィ…続けた先にたしかにィ…!この命とも引き換えになりそうな理想がありそうな気がしてんだァ…」
髙地優吾・田中樹「何もない俺だと思っていたァ何するにも続きやしなかったァその俺がバッチバチィ!ギッチギチィ!ガッチガチィ!にハマったァ…」
髙地優吾・森本慎太郎「俺はコイツで生きていくゥきっと意味ならついてくるゥ今は心に飼っているゥこの獣スクスク育っているゥウ……」
京本大我「目にもの見せようかァアア!?!?!歴史が今夜ァアア…音゛を立ててェエエァ変わる様をォオ…」
ジェシー「俺らはァア共犯者ァァアアアア!!下馬評がどうだァ、とかお好きにほざけエェェエアアアアア!!!!」
「夢に見てた先の景色よりもしかして…もがき続ける今が何より輝いて…見えるのかもなんて思えたりもするけど…そんなことはあとでいくらでも考えればいい…」
松村北斗「僕らがいたァ…」
森本慎太郎「今をいつかァ…」
髙地優吾「歴史が見てェ」
田中樹「羨むようなァ…」
京本大我「色に染めるゥ…」
ジェシー「確信などォ…何もないけどォ…」
全・洋次郎(ぜん・ようじろう)
小節ごとにまったく違う展開。俺が知ってる洋次郎のようで、どれにも当てはまらない、凶暴洋次郎、狂気洋次郎、ピュア洋次郎、激重洋次郎、その全てが複雑に混ざり合った、結果として全然知らん洋次郎がそこにはいた。しかし、どっからどう聴いても完全な洋次郎だった。
「この命とも引き換えになりそうな理想がありそうな気がしてんだ」
洋次郎すぎる。聴いてて「え?なんて…?なにそうって…?」と脳が混乱する、句読点がまったくない歌詞。それがSixTONESの声で聴こえてくる。
6人それぞれがそれぞれの「野田洋次郎」を降ろして歌っている。まるで高級レストランに行ったらシェフに
「こちらが野田洋次郎の搾りたて汁です。味がまったく違う6種類のフレーバーを混ぜてお楽しみください」
と、言われたような衝撃
子どもが描いた迷路のように不規則なメロディに乗せて歌われる、誰もが感じる青春の断片を拾い集めてSixTONEの歴史と交差させたかのような歌詞。
絶えず入れ替わる、強気と弱気。無鉄砲と不安定さ。だからこそ無理矢理にでも過剰な言葉を使って自分達を鼓舞して進む。SixTONESが、泥臭く、汗と涙で這いずってきた道のりを洋次郎が奥の奥まで抉り出す。
田中樹の声は刃みたいに鋭く、だがどこか優しい夜のようだ。甘く切ない森本慎太郎の声は幻想を現実にさせる。松村北斗の低音はまるで地面を這うような重みを加えて、ジェシーと京本のメインボーカルが空に向かって突き抜ける。髙地優吾がそこに絡むと、まるで6人が夜の屋上で語り合ってるみたいな空気が生まれる。
星は遠くから見れば綺麗だが、近くから見れば汚れているかもしれない。でも、だからこそ美しく光輝く。
こんなにもSixTONESと野田洋次郎を敷き詰めた曲があるかよ。
どう思う、エリちゃん