むかし少年ジャンプで連載されていた島袋光年の漫画「世紀末リーダー伝たけし!」が好きだった。いまは「トリコ」という漫画を描いていてけっこう人気らしいが、個人的には「世紀末リーダー伝たけし!」が島袋光年の最高傑作だ。
「たけし」といえば、派手なバトルやギャグにばかり目が行きがちだが、たまに挟まれる日常の話がすごく面白いう。中でも特に傑作だったのは1巻、第2話の「トマト日‼︎」という話だ。
この話は、クラスの「エージ」という男の子がトマトが嫌いだというところから話が始まる。たけしたちが通うポッポ小学校には週に1回必ず給食にトマトが出る 「トマト日(デー)というものがあった。そのためトマトが食べられないエージはその週に一度のトマト日が憂鬱だった。
そのことをたけしに話すエージだったが、そんなエージをクラスメイトたちはバカにする。エージは以前、授業中にオシッコをもらしてしまったことや、人より肌が白いという理由でクラスメイトから影で悪口を言われていた。
給食の時間、トマトを残しているエージに担任のかおり先生はエージがトマトを食べるまでは帰さないと告げる。そして「一人はみんなのため、みんなは一人のため」と他のクラスメイトたちも残るよう言うのだった。それからというもの、エージは「トマト日」の日は学校を休むようになった。
ある日の放課後、たけしがカメのエサをあげているエージに声をかける。エージはたけしに言う。カメが羨ましい、カメは嫌いなものを食べなくていいから、と。 そして自分がオシッコをもらしたことでみんなからバカにされるのは仕方ない、でも肌が白いのは関係ない、なんでそんなことでバカにされなきゃいけないん だ、と泣きながらたけしに話すエージ。
次の日、お腹が痛くなったエージはトイレに駆け込むが、そこでエージの悪口を言うクラスメイトたちを目にしてしまい、トイレに入らずその場をあとにしてしまう。
そして授業中、エージはまたお腹が痛くなってしまいとうとうウンコをもらしてしまう。案の定、誰かが「なんか臭くない?」と口にし、犯人探しが始まる。みんなにばれないようにと願うエージ。
そんな時、一人の名前が挙がるのだった。
「わかった、たけしくんだ!」
島袋光年 世紀末リーダー伝たけし! ワイド版1巻より
たけしは、エージがウンコをもらしたことを隠すために、自分もウンコをもらしていたのだ。たけしのウンコのあまりの臭さにエージのウンコの匂いはかき消され ていた。そしてたけしは「パンツを洗うの手伝ってくれ」とエージをトイレに誘う。そしてパンツを洗いながら、エージにたけしは言う。
「人に嫌われたい」なんて思ってる奴なんか1人もいないさ。誰だってそうだ…。エージは嫌われたくて色が白いんじゃない…生まれつき白いんだ。いいじゃないか 別に…。全然なんにも気にすることなんかないさ!そんなくだらんことをバカにする奴がいたらオレがゆるさん!オレはエージの味方だ!!でもなエージ…「トマト」だって別にエージに嫌われたくてあんな味になったんじゃないぞ。生まれつきあの味なんだ、生まれつき。
翌日のトマト日。エージが登校すると、誰もエージのことをバカにするクラスメイトはいなかった。たけしのウンコ事件がエージのションベン事件を忘れさせていた。
そして給食時間、ついにエージはトマトを克服するのだった。という話。
この話を読んで何を思ったかって言うと、「大切な人のためにウンコもらせますか?」ってこと。自分の家族、恋人、友人がウンコをもらしたとき、自分の地位や名誉なんて顧みず、その家族、恋人、友人より臭いウンコもらせますか?たぶんできないだろう。逆に自分の大切な人は自分のためにウンコもらしてくれるだろうか?いや、できないだろう。それどころか、この話のクラスメイトたちのように容姿や過去の失敗をバカにする人間になっていないだろうか。
よく「君のためなら死ねる」なんてセリフを聞くが、まるでリアリティがない。しかも死なれても迷惑だし、遺された人たちの気持ちを考えるとそんなことは言えない。だったら「君のためにウンコもらせる」って言われたほうが俺は嬉しい。
だからこの「トマト日」という話、ひいては「世紀末リーダー伝たけし!」という漫画には本当の「優しさ」とはなにか、クソみたいなプライドがこびりついた私たち大人が忘れてしまったものがたくさん詰まっているのではないでしょうか。
大切な人のためにウンコをもらせますか?