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イライラして画面叩き割りたくなるのに気づいたら2時間経ってる映画『劇場』感想

劇場

 

最初から最後までまるで噛み合わない、やることなすこと全部ズレてる男女の話で終始イライラしっぱなし…のはずだったなのに、気づいたら2時間経ってました。

 

山﨑賢人演じる「永田」は売れない劇団の主宰で、自意識過剰で自信過剰、かつコミュ障で知り合いにはアホみたいに態度デカいのに「他人」となるとビビって物陰に隠れるプライド全身張り付き男。

そのくせ彼女がバイト先の先輩から原チャリを貰ったことにブチギレて原チャリを破壊、同棲しているにも関わらず生活費を1円も払わない永田への「今後のことも考えて…光熱費だけ払ってもらえないかな…?」に対する返答が

「うーん…でも…ここ沙希ちゃんの家やし…他人の家の光熱費を払う理由が…ね…わからん…」

と、ヒモになることだけに関しては天性の才能を光らせてるゲボバカクズ。特に序盤、居酒屋で同じ劇団員の青山(伊藤沙莉)にヤバい暴言を吐こうとして、帰り道に別の劇団員の男に闇討ちされ傘でボッコボコにされるシーンは永田という男の全てを表しています。

 

そんな永田に惹かれた松岡茉優演じる「沙希」は女優を夢見て上京してきた大学生。永田を徹底的に全肯定、褒め殺して飼い殺そうとし、炊事洗濯はもちろん先ほどの永田の光熱費クソ屁理屈に対しても

「たしかに…!他人ん家の光熱費払う人いないよね〜…!ウケる……ハハ…」

と、自分から話を流して笑顔を作るナチュラルキラー地雷女。最初こそ永田と同じように沙希が聖母にも天使にも見えかけたんですけど、その行き過ぎた過保護っぷりはカワイイ通り越してもはや恐怖。

「他人に認められることで周りを幸せにできると思ってる」永田と、「他人を認めることで自分が幸せになれると思ってる」沙希、圧倒的に痛い2つの承認欲求が磁石のSとNみたいにどれだけお互いを遠ざけても引き寄せあってしまう、どうしようもなく救いようのないバカップルがここに爆誕し、勝手に壊れていく

…という0.0000001ミリも共感もできなければ感動もできないどうしようもない映画なんですが、なぜか「目が離せない」

 

永田の東京に染まったがゆえに不自然になる関西弁、沙希の自信のなさから来る前髪を触る癖、「永田」と「沙希」をはじめ登場する人間のディティールがハンパじゃない。実写千本ノックを経て逆に「平凡な男」の演技を極めた山﨑賢人、もはや実体がどこにあるのかわからなくなるほどの憑依能力の松岡茉優、クソ鼻につく演技天下一武道会チャンピオン伊藤沙莉、出てきただけで不穏100倍浅香航大、存在感が覇王寛一郎、そんな演技という概念から産まれし鬼たちが見せる圧倒的なリアリティ、そして画面越しから伝わってくる、誰にでも夢を見させ容赦なく奪っていく街「東京」のキラキラしつつも生ぬるい質感。決して主張せず、地味に、淡々と2時間描かれてる。大成功もしなければ大失敗もしない。ヌルっと始まってヌルっと終わる。人生にドラマなんか起きねぇ。こんな奴ら腐るほどいる。お前含め。そう言われてるみたいな、超うるせぇ。

 

だからこそ、確実に画面の中で登場人物たちが「生きていた」。その実在感が、ちょっとした繋がりや些細な言い争いにどうしようもなく心揺さぶられる。そして最後にはどんなにイライラしても永田や沙希のことを嫌いになれない俺がいた…いや、むしろちょっと好きになってた。どれだけカッコ悪くても、どれだけ惨めになろうとも終始雰囲気だけは「昭和の文豪」醸し出してて最後までブレることなく「クズ創作者」であり続けた永田の破滅的な生き方に「早く野垂れ死ね」としか思いつつもどこか憧れてしまう俺がいたし、そしてそんな永田をブレることなく甘やかし続け、誰よりも永田の才能を信じ、壊れていく沙希の姿が痛々しくて、儚くて、怖くて、愛おしかった。全員、養いたい。

 

「良い悪い」「面白いつまらない」を通り越してジワーーーっと感情を揺さぶってくる不思議な映画でした。

最後にKing Gnu井口理の初登場シーン…ビックリして一瞬頭真っ白になって白目になりました、「時にはァ…」って流れるかと思った。

 

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