私立恵比寿中学の『愛のレンタル』という曲があるんですが、世紀の大名曲すぎて去年初めて知ってから呼吸するのと同じ回数聴いてる。10年会ってない俺の親父にもこの素晴らしさを伝えたい。
「下北にあるボロボロの安アパートに住んでる男女の何の実りもねぇけどエロエロ恋愛の完全究極体」みたいな変態曲をエビ中が歌った時にどうしようもないほどにほとばしる色気と背徳感、そして包容力が生まれ、曲が「覚醒」した。確実に「アイドルが歌う意味」がここにはある。エビ中は全員がパフォーマンスでもってこの曲に完璧な「正解」を叩き出していた。
『愛のレンタル』とはすなわち「愛の受け渡し」と言い換えても良い。この曲の主人公は愛を物や金のように一定数使えば無くなる「消耗品」として捉えている。
「先生の言うこと(いいこと)10年経って響いたぞアイ・ラブ・ユー&ミー」
の一節は「愛されたいのならまず自分が愛しなさい」という聖書の一文に繋がってくるのだが、自分の中にある愛の量が増えれば、その愛で持って必然的に他人を愛することができる。しかし、歌詞の主人公はそれが分かっていてもできない。
返してくれるなら愛してみせるのに
何かしてもらうことが前提の愛。利己的で打算的、愛のレンタルつまり「僕が愛してあげる代わりに君も僕も愛して」「愛をあげたんだから返してよ」という独りよがり極まりないウンコ。それが冒頭に言った「下北の小汚えアパートの恋愛観」に繋がってくるんですが、アイドルというある意味「究極の愛のレンタル」とも言える仕事に就いている彼女達が歌うことで、単なる恋愛を超えた、もっと内包的な人間と人間の「愛の在り方」の曲にまで発展する。それを完璧に表現しているのが私立恵比寿中学なのです。
まず、ライブ映像を見てもらうと分かる「スタンドマイクパフォーマンス」のヤバさ。
「アイドル+スタンドマイク=最高
の方程式は、AKB48『ヘビーローテーション』、嵐『ワイルド アット ハート』、SMAP『さかさまの空』などでも十分に証明されているのですが、この『愛のレンタル』もその例外ではありませんでした。「センターマイク」という一本の線を通してアイドルを見るとそれまで抱いてきたモノとはまったく別の感情が生まれる。まるで俺の目の前で歌っているかのような感覚。一瞬で「センターマイク=俺」の式が出来上がる。つまり
「アイドル+スタンドマイク(俺)=無限(インフィニティ)」
そして、この曲を語る上で絶対に無視できないのが本曲のセンターポジション「真山りか」。「徹底的」と言っていいほど彼女にスポットライトが当たっているのですが、曲を聞いてもらうと分かるとおり彼女の声、表情、仕草、全てが「誘惑」の二文字で形成されている。もはや性別を超えた「人間そのもの」の色気、それが曲全編通して滲み出て俺の中の理性が全て爆発した。少し鼻にかかった低音かつ艶のある声、長い手足を使った指先まで意識が行き届いた白鳥のようなパフォーマンス、見た者全員の夢に一生出続けるほどの表情、その一挙手一投足すべてが愛を表現していた。俺の目の前に現れた女神。
そんな彼女に呼応するかのように他のメンバー全員の色気が強烈に引き出されていた。例えば、小林歌穂の歌う「アイ・ラブ・ユー&ミー」「甘えてほしいのに」で自律神経の乱れが完璧に治った。ただのベホマ。彼女の声が一節でも入るだけで、どんなにアーティスティックな楽曲でもヒマワリが咲いたようにモノクロの世界が色づき始める。今は真冬だが俺の心は夏だった。エビ中を私立恵比寿中学たらしめているのは間違いなく小林歌穂の歌声によるところがデカい。エビ中はとにかく「歌割りが大正解」なのですが、特に小林歌穂、いや愛を込めてあえて「ぽーちゃん」と呼ばせていただきますが、ぽーちゃんの使い方「大天才」としか言いようがない。この愛のレンタル然り、吉澤嘉代子が提供した『日記』のラスト「あなたの家族がいい」といい、随所にブチ込まれるぽーちゃんの癒し声で俺の寿命は80年延びた。
さらに、柏木ひなたの「どんどん積もる愛の延滞料だ」の部分。もはや彼女の歌の安定感は「海」。「歌声に抱かれる」というのはこういう感覚のことを言う。太平洋、大西洋、そして「柏木ひなた洋」。彼女の声はそれほどに「広い」。『自由へ道連れ』『星の数え方』そして『愛のレンタル』、技術以上に歌う側の「説得力」が要求される解釈の難しい楽曲でも「柏木ひなたが歌う」それだけの事実でエビ中の楽曲のクオリティが何倍にも膨れ上がる聴く界王拳。歌以外にも「愛の」の所で柏木ひなたがハートマークを作るんですが、ただの「兵器」。ハート型のレーザービームで東京の人口1300万人が消滅した。
そしてサビ前「夢の中で僕のこと探して」「大袈裟に欲しがってほしいのに」で両手をバッ!と大きくに広げるポーズ。この瞬間、かわいさのビッグバンによって精神崩壊しました。「ミュージシャンによるアイドル提供曲の完成形」がここにあった。愛の具現化、愛とはエビ中のことだった。世はエビ中をあらゆる障害から守る責務がある。俺はその一端を担いたい。ありがとうございました。