「マカロニえんぴつ」をご存知でしょうか。現在、若者を中心に大人気のバンドです。私は彼らを最初に見たとき、こう思いました。
「適当に名前つけんな」
ラジオネームか?「普段はお昼のラジオ中心に送ってますけど、たまに深夜ラジオにも送ってますよ(笑)」みたいなしゃばい名前つけるな。ふざけるな真面目にやれ、と。
そんな偏見から、ずっとマカロニえんぴつを拒否していました。それどころか「エモ酒タバコ浮気セフレ」みたいな曲しか歌わないやつらだとバカにしていたのです。しかし去年、ふとラジオから流れてきた
「悲しみはバスに乗って」
人生。この曲は人生だった。俺の。
ポップなメロディとそれに反比例するかのように次々と変わるアレンジ、そしてその音に乗せて歌われるのはどうしようもないほどの死への恐怖。あくまでも「架空」の一人の男の人生を振り返りながら、生きる意味を自問自答する。
「ぼくは青二才 赤ん坊は一歳 涙で滲むは給料明細」と自分の状況をおどけて韻を踏みつつ、次のバースで急に「そういえば今日はあいつの命日だ なんで死んだんだって どうして死ななきゃいけなかったんだろう」と生活と死は地続きであるという事実を突きつけ、タイトル通り「悲しみ」を全てバスに乗せて解き放つようなサビへ。
「悲しみはバスに乗って それで どこでもいい どこかへと行こう この命が燃える目的は何?ここで もういい きみとなら 行こう 行こう 行こう」
このなんか言ってそうでなにも言ってないサビがすごすぎる。ここまでしつこいほどに「男」の輪郭を繊細に描写しておいて、いきなり抽象的な歌詞によって目線が「リスナー」に向く。「この話はお前のことだ」と突きつけられているような。
2番では「まだまだぼくは半人前 生活は三人前 今になって思い知る いま担って思い切る これから取りに行く誠実さや ようやく取り返す信用や」とさらに男の生活にフォーカスさせ男の生活のプレッシャーを肌で感じさせる。そして「悲劇は金になるから囁く声が聞こえる バカ言え 誰かに売れるもんじゃない」と、この曲のテーマの根幹とも感じられる、フィクションを超えた「創作者の叫び」ともとれるような鬼気迫るフレーズでのブリッジを経て、再びサビ。
終了と同時に、突然曲調が変わり「ありふれた日 ありあまる日 ありきたりなしあわせ」というフレーズをひたすらリピートさせることで我々に「今のお前どう?幸せ?」と問いかけるような余韻を残して終わる。
衝撃のあまり全身と股間が爆発しました。そしてこれをきっかけに、マカロニえんぴつの曲を文字通り「全て」聴き漁りました。
俺はなにをやってたんだ今まで?
名前のダサさなどなんの関係もなかった。マカロニえんぴつどころか「ウンチおしっこ」でもまったく問題ない。それくらい音楽が良い。もっと流行っていい。もう流行ってる?足りねえ。余裕でドームパンパンにしていい。むしろ俺が5万人に分身して東京ドーム満員にしたい、そう思いました。
ボーカル・はっとりの書く歌詞はマジで「かゆい」。かゆすぎる。俺が思わないようにしていた、口にしないようにしていた「恥ずかしい言葉」を浴びせてくる。全身がムズムズして引きちぎりたくなる。人間が「普通」として社会生活を営む上で隠さなければならなかった感情を容赦なく白日の元に晒す。
やめてくれ。なんで俺がずっと心の奥底に封印して鎖ぐるぐるに巻いて開かないようにしていた黒歴史の扉をこじ開けようにしてるんですか?もしかして俺の生活のぞかれてる?そんな恐怖すら覚えた。
そして、そんな「かゆみ」を収める唯一の方法が、他でもない「はっとりの声」だった。色気と儚さが同居した「かゆい部分をかいてくれる声」とでも言えばいいのでしょうか。書いている内容にはフィクションも多いんだろうが、それを全く嘘に感じさせない声質。かゆい言葉に対して一番気持ちが良いところを的確に刺激してくる。すると
はっとりの歌詞を読む→全身かゆくなる→はっとりの声を聴く→はっとりが俺の背中をかいてくれる→俺「アァ〜…そこそこ…キモチエエ〜…」
→はっとりの歌詞を読む→全身かゆくなる→はっとりの声を聴く→はっとりが俺の背中をかいてくれる→俺「アァ〜…そこそこ…キモチエエ〜…」
→はっとりはっとりはっとりはっとりはっとりはっ
「はっとり無限ループ」が起きるのです。
はっとりの言葉は全てがはっとりの中で完結している。そう、マカロニえんぴつを聴くことで起きる快楽はマカロニえんぴつでしか鎮めることができない。
そしてマカロニえんぴつの音楽の凄さとは「幅」
『ワンドリンク別』のような正統派爆速ロックもあれば、『Frozen My Love』のような青春パンクもあれば、『嘘なき』のようなギター弾き語りで構成されたシンプルの極みのような曲もあれば、『Mr.ウォーター』のような一節ごとにアレンジが変わる脳味噌ブン回し曲もあれば、『嵐の番い鳥』のような酔っ払って作ったとしか思えない昭和歌謡の曲もあれば、『TONTTU』『街中華☆超愛』のような何かをキメて作ったとしか思えないアホアホイカレ曲もある。
「バンドサウンド」は自分たちの絶対的武器として主軸に置きながら、そこに甘んじることなく実験的な曲展開やアレンジに挑戦することをいとわない。はっとりだけでなく、メンバー全員がただひたすらに「良い曲」「心に刺さる曲」だけを追い求めるミュージックソルジャー集団だったのだ…
俺は本当に馬鹿だった。名前で、見てくれで判断して否定して、彼らの「音」に向き合うことから逃げていた。マカロニえんぴつ…その名前こそ適当かもしれないが、彼らは誰よりも真摯に音楽に向き合っ…
●バンド名の由来や意味を教えて下さい。
はっとり:はい。「マカロニ」って覗くと空洞じゃないですか?その空洞の部分って存在しない物で、だけど…有名な哲学者の言葉で「ドーナツの穴を食べる」ってあるんですけど…それに近い物で、何も無いような物だけれども、その存在意義を意識して……
それに対して「えんぴつ」って、物を「在り」にしていくものじゃないですか?例えば白紙に線を入れるだけでそこには「存在」が出来る。何にも無い穴、その「無い存在」を自分達で意味の在る物にしていきたい、それをえんぴつで書き進んでいくっていう意味を込めて、穴の象徴「マカロニ」と存在を作る「えんぴつ」で「マカロニえんぴつ」です。
⊂[TOTE | INTERVIEW | マカロニえんぴつ ]
うそ…だろ…?
マカロニえんぴつとは、決して適当につけられた名前ではなかった…?全ては「計算」だった…?
何にも無い穴、その「無い存在」を自分達で意味の在る物にしていきたい、それをえんぴつで書き進んでいく意味を込めて、穴の象徴「マカロニ」と存在を作る「えんぴつ」で「マカロニえんぴつ」……?
なに言ってるかまったくわからない…
わからないが、俺がぜんぶ間違っていた。それだけはわかる。今さら許されるとは思ってはいないが、せめて心から謝罪をしたい。全ての無礼を謝りたい。
マカロニえんぴつさん、本当にすみませんでした。俺の心こそ、穴の開いたスカスカのマカロニ。殺してくれ