16歳の夏、初夏。
僕に初めての彼女ができた。
生まれて初めての彼女。
同じ16歳になる他の同年代の同級生達から見ると16歳で初めての彼女というのは一般的には少し遅いのかもしれないし、少し早いのかもしれない。
僕は少し遅いんじゃないかとは僕も思う。
ようやくの彼女。
ずっとずっと欲しかった彼女。
待望の彼女だ。
念願叶っての彼女だった。
いや、念願というと聞こえはいいかもしれないが実際は念願というほど聞こえのいいものではないのかもしれない。
ただ僕は異性の女の子と付き合うということに無料ならぬ憧れがあったのも事実だ。
「異性の女の子とデートをしたり、異性の女の子とどこかに出かけたり、異性の女の子と買い物をしたり、異性の女の子と遊びに行ったり、そういった異性とのことを僕は望んでいたのかもしれないな」
異性の女の子こと彼女の顔を見ながら僕はそう言った。
「ふふ。どうしたの急に。むにゃむにゃ」
彼女はそんな微笑みを見せて眠っていた。
僕はその彼女のその眠ったその寝顔を見てその幸せを噛み締めていた。
「ゴクッ」
僕はこの幸せを喉の奥に押しこめたあと、僕は彼女の眠った寝顔を目で眺めていた。
長い髪。
白い肌。
他人の目じゃない。
厳しい第三の目じゃない。
本当に僕自身の右の目と左の目の両の目で彼女を見つめていた。
透き通るような、本当に透き通るような、白い肌。
まるで陶器のような。
まるで米のような。
まるで洗いたてのタオルのような。
まるで白い肌。
そんな白い肌の彼女を僕が自分の自宅に初めて家に上げたのはこの日が最初だ。
静寂が僕ら2人を包み込んでいた。
蝉の鳴き声。
扇風機の音。
テレビの音。
選挙カーの演説。
はしゃぐ子供達の外の声。
「髪切った?」
「明日も見てくれるかな」
コージー現場の作業音。
束の間の静寂。
もしかしたら、他人(ひと)はこれを静寂とは呼ばないのかもしれない。
でも僕らにとっては確かに静寂だった。
そう、確かに。
静寂という名の。
走行していると彼女は目を覚ました。
「あ、あれ?寝ちゃってた?アタシ」
そう彼女は口にし、彼女は上体を起こした。
彼女は自分のことを「アタシ」と呼ぶタイプの女性だった。
僕はいつもいつもそのことが気になっていた。
「あのさ、前から思っていたんだけども。ちょっといいかな」
僕はこう彼女に告げる。
「そのアタシってのやめてもらっても、いいかな」
彼女は少し驚いたような表情を見せた後にふふっ、と笑ったような気がした。
「わかった。もう、言わない。あなたがそれを望むのなら、アタシはもう、言わない」
僕は彼女にそう言ってほしかった、でもそれは叶わぬ願いだった。
彼女はそれを言ってくれることはなかった。
彼女は大きな口を開いてこう言った。
「アタシ、キレイ?」
「え?あ、ああ。キレイだよ。とにかくアタシっていうのやめろよ」
「キレイでしょ。お母さん似なの」
「そうなんだ。お母さんはいくつ?」
「今年で40歳なの。生きていればね」
「え?」
「お母さんね、死んじゃったの」
「え?それって」
「お母さんを殺したのは…お前だ!!!…なーんてね。ちゃんと生きてるよ」
「え?びっくりした〜、なんだよ急に」
「じゃあアタシ、そろそろ行くね」
「なんだよ急に。そのアタシっていうのやめろよ」
「さっきアタシのこと、洗いたてのタオルのような白い肌って言ってくれたよね。それ、すっごく嬉しかったんだよ」
「アタシっていうのやめろって」
すると彼女の透き通るような白い足がスーッと、いやサーっと、いやファーっとのほうが正しいのかもしれない、本当に透き通っていく。
「アタシはあなたが作り出した幻影。妄想なの。でも、もうあなたはアタシがいなくても大丈夫。大丈夫だから」
「なに言ってるんだよ。とにかく、アタシっていうのやめろよ」
「アタシもあなたと過ごせて楽しかった。バイバイ…バイバイ…(^_^)/~」
彼女が目の前から消えていく。
ウソだ、目の前から彼女が消えるなんて。
彼女が僕の前から消えるなんて、そんなの、そんなのイヤだ。
「パアァァァァァ」
僕がそう口にすると彼女の身体から光が差し、僕ら2人に降り注ぐ。
「え?これって…」
彼女が驚く間もなく、消えかかっていた彼女の身体がその輪郭を取り戻していく。
奇跡だ。
奇跡が起こったんだ。
いや、これこそが2人が歩いてきた軌跡。
この物語の布石。
キミさえいれば、いらない功績。
頭はクレバー、身体はホット。
ホッとしたけど、放っておけない。
溶けない氷なんてない。
ジタバタしててもしょうがない。
受け止めろ現実、受け入れろ真実
…僕は涙を流しながら歌詞を書いていた。
お察しの通り、暑くて頭はやられてるし、16で彼女もできていません。