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Fight Song

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妻アーティストと愛人アーティストのはざまで揺れるSpotify音楽生活

定額で無限に音楽が聴けるようになる悪魔のサービス『Spotify』に登録して生活が一変しました。

今までは「ごく少数の特定の好きなアーティストの曲を聴く」だけだったのが、最近じゃそこまで好きじゃなかったようなアーティストが作った曲や、最近出てきた若いアーティストの曲もガンガン聴いてて。だってどんだけ聴いても払ってる金額は一緒なんだから、1組だけ聴くよりも10組のアーティストの曲聴いたほうが絶対いいじゃないですか。

そりゃ俺も最初は思ってましたよ……?心に決めたアーティスト徹底的に愛せないでなにがファンだよ馬鹿野郎って。でも、色んな音楽を知っていくたびに改めて感じるんですよ。本命アーティスト、いや「妻アーティスト」のありがたさが。 

 

他のアーティストの曲を聴いたあとの妻アーティストのメロディと声は、旅行から帰ってきて自分の家の布団で寝た瞬間の気持ち良さに似てて、うわっ…こんな耳に馴染むもんかと、こんなに心地良いんかと。

「ああ…これが…これこそが俺の原点ー」

って涙流しちゃう。「俺はこの瞬間のために他の音楽を聴いていたんだ」「コイツを選んで本当に良かった」、そう思うんすよ。色んな経験をしたからこそ気づくことができる妻アーティストの魅力。歴を重ねたからこそ出せる深み。やっぱり俺にはコイツしかいねぇ…。他アーティストは単なる遊びで浮気、そう「愛人アーティスト」だったんだ。

 

…ただ、そう思いつつも「愛人アーティスト」との音楽を心から楽しんでる俺がいるのも事実。

 

他のアーティストの曲を聴いているとき、

「○○、ゴメンな……俺が本当に愛してるのは、お前だけなんだ…」

って心のなかで懺悔しながら、愛人アーティストの音楽に溺れてる。新しいメロディ。新しい声。今まで聴いたことない音楽体験。たまんねぇ。他アーティストの鈴を転がすような声で耳元で、

 

「うわ…こんなにしちゃって…○○さんかわいそ…」

 

って囁かれてるとき、これ、もう、ヨダレ垂らして気絶するほど興奮する。その罪悪感、背徳感が俺の耳を今日も愛人アーティストのところへと向かわせる。

Spotify音楽生活を始めてからというもの、そりゃあもう色んなアーティストの曲聴いてる。経験曲数?100超えたあたりから数えんのはやめた。昨日の夜は外人だった。2人の愛人アーティストの曲同時に聴いてやったこともあったよ。スマホとパソコンで同時に流して乱曲パーティ。3T。とんだヤリミミ野郎ですよ俺は。

 

…そうだよ。妻アーティストは外で俺がこんなことしてるの、知らねぇよ。妻アーティストは俺が愛人アーティストの曲聴いてるの、気づいてねぇよ。どんなに帰り遅くなっても、連絡ひとつしなくても、妻アーティストはいつも家であったかいメシをこしらえて俺の帰り待っててくれてるよ。

…わかってるよ。やっちゃいけねぇことしてるって。許されねぇことしてるって。人の道外れてるって。そんなのわかってんだよ。でも、止められないんだよ。だって音楽って「自由」だから。さっきも書いたように、愛人アーティストの音楽を目いっぱい、いや耳いっぱい味わったからこそ、妻アーティストの音楽を愛せる、そういうバランスなんだ。他人の音楽生活に口を挟むな。

 

…家のドアを開けるとき、いつもやる儀式がある。頭を振り、耳にこびりついている愛人の声を、音を必死にかき消す。そして「ふぅ」と深呼吸して白い仮面を被る。

 

ガチャッ

 

「ただいまー!あぁ〜疲れた〜〜〜!」

「…おかえり…今日も遅かったのね」

「そ、そうなんだよ……!今日もさあ帰ろう!って思ってたらいきなり部長に仕事振られちゃってさ!ヒデェったらねぇよ〜〜!サビ残勘弁してくれよって感じだよな!ハハ……!」

「そう…大変だったわね…お疲れ様…」

 

そう言って俺に微笑みかける妻。相変わらずよくできた妻だ。気づいてる様子もない…。そうだ…このままでいいんだ。うまくやろう。気づかなければ誰も傷つけることない…。妻と愛人、どっちもちゃんと愛せばいいじゃないか。俺は間違ってないんだ。

  

「そうだ…スープあるけど、飲む…?」

「あぁ…そうだな!少しもらおうかな…!」

「じゃあ温めるから、先に着替えてきて…?」

「サンキュー!○○の作ったスープうまいから楽しみだなぁ!」

「そう…良かった…」

 

 

そのスープが毒入りであるということを、俺はまだ知らない。