定額で無限に音楽が聴けるようになる『Spotify』に登録して生活が一変した…
わずか月額1,000円弱でこの世のあらゆる音楽が聴き放題…その悪魔のサービスに加入したせいで今までは「ごく少数の特定の好きなアーティストの曲を聴く」だけだったのが、最近じゃそこまで好きじゃなかったアーティストが作った曲や、最近出てきた若いアーティストの曲もガンガン聴くようになった…
冷静に考えるととんでもないイカれたシステムだ…月1曲聴こうが1,000曲聴こうが払ってる金額は一緒…それなら1組だけ聴くよりも10組のアーティストの曲聴いたほうが絶対いい、そう思うのは自然の摂理…
だが…俺も最初はどこかで罪悪感があった…心に決めたアーティスト徹底的に愛せないでなにがファンだよバカがって…でも、色んな音楽を知っていくたびに改めて感じる…本命アーティスト、いや「妻アーティスト」のありがたさが…
他のアーティストの曲を聴いたあとの妻アーティストのメロディと声は、旅行から帰ってきて自分の家の布団で寝た瞬間の気持ち良さに似てる…こ…こんな耳に馴染むの…?こんなに心地良いの…?
「ああ…これが…これこそが俺の原点ー」
って涙流す…「俺はこの瞬間のために他の音楽を聴いていたんだ」「コイツを選んで本当に良かった」…そう思う…色んな経験をしたからこそ気づくことができる妻アーティストの魅力…歴を重ねたからこそ出せる深み…やっぱり俺にはコイツしかいねぇ…他アーティストは単なる遊びで浮気、そう「愛人アーティスト」だったんだー…
…ただ、そう思いつつも「愛人アーティスト」との音楽を心から楽しんでる俺がいるのも事実…他のアーティストの曲を聴いているとき、
「○○…ゴメンな…俺が本当に愛してるのは…お前だけなんだ…」
って心のなかで妻アーティストに懺悔しながら、愛人アーティストの音楽に溺れてる…新しいメロディ…新しい声…今まで聴いたことない音楽体験…本当に…たまらない…愛人アーティストが鈴を転がすような声で耳元で、
「うわ…こんなにしちゃって…○○さんかわいそ…」
って囁かれてるとき…ヨダレ垂らして気絶するほど興奮してる自分がいる…頭がおかしくなる…その罪悪感、背徳感が俺の耳を今日も愛人アーティストのところへと向かわせる…
そんなSpotify音楽生活を始めてからというもの、そりゃあもう色んなアーティストの曲を聴いてる…経験曲数?100超えたあたりから数えんのはやめた…昨日の夜は外人だった…2人の愛人アーティストの曲同時に聴いてやったこともあった…スマホとパソコンで同時に流して乱曲パーティ…3T…とんだヤリミミ野郎だ俺は…
…そうだよ…妻アーティストは外で俺がこんなことしてるの、知らねぇよ…妻アーティストは俺が愛人アーティストの曲聴いてるの、気づいてねぇよ…どんなに帰り遅くなっても、連絡ひとつしなくても、妻アーティストはいつも家であったかいメシをこしらえて俺の帰り待っててくれてるよ…
…わかってんだよ…やっちゃいけねぇことしてるって…許されねぇことしてるって…人の道外れてるって…そんなのわかってんだよ…でも…止められねぇんだよ……一度知っちまった快楽は決して忘れることはできねぇ…いや…忘れる必要なんかねぇ…さっきも書いたように、愛人アーティストの音楽を目いっぱい…いや耳いっぱい味わったからこそ妻アーティストの音楽を愛せる…そういうバランスなんだよ…他人のことに口を挟むんじゃねぇよ…
…家のドアを開けるとき、いつもやる儀式がある…頭を振り、耳にこびりついている愛人の声を、音を必死にかき消す…そして「ふぅ」と深呼吸して『笑顔』という白い仮面を被る…
ガチャッ…
俺「ただいまー!あぁ〜疲れた〜〜〜!」
妻「…おかえり…今日も遅かったのね」
俺「そ、そうなんだよ……!今日もさあ帰ろう!って思ってたらいきなり部長に仕事振られちゃってさ!ヒデェったらねぇよ〜〜!サビ残勘弁してくれよって感じだよな!ハハ……!」
妻「そう…大変だったわね…お疲れ様…」
そう言って俺に微笑みかける妻…相変わらずよくできた妻だ…気づいてる様子もない…そうだ…このままでいいんだ。うまくやろう。気づかなければ誰も傷つけることない…妻と愛人、どっちもちゃんと愛せばいいじゃないか…間違ってない…俺は間違ってないんだ…
妻「そうだ…スープあるけど、飲む…?」
俺「あぁ…そうだな!少しもらおうかな…!」
妻「じゃあ温めるから、先に着替えてきて…?」
俺「サンキュー!○○の作ったスープうまいから楽しみだなぁ!」
妻「そう…良かった…本当に…良かった…」
俺「うわー!おいしそうだなぁ!いただきます!!!」
妻「……」
俺「ゴクッ……………ングッ…!!!カッ……な……なん……」
スプーン、カランッ…!
俺「ど……どうし………て…………」
妻「……うそつき…私だけを愛してるって…言ったのに…」
みなさんも、くれぐれもお気をつけください