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令和に『ローマの休日』見て泣いた男の休日

ローマの休日(字幕版)

 

プロジェクターで壁に昔の洋画を音声消して映してるタイプの店行ったんですよ。そしたら『ローマの休日』?だっけ?やってて。

「うっわ、ふっるい映画流してんなぁ、白黒じゃねぇかよ。誰が見るの?こんなもん」

つって牛乳片手にボーッと画面眺めてたら、

 

2時間経ってました…

 

立場の違い…利害の一致から始まった関係…徐々に惹かれ合う二人…それでも抗えぬ運命(さだめ)…

 「この世のあらゆる恋愛の創作物はローマの休日から始まってるのか」

そう錯覚するほどすべてが詰まってた…しかも描き方が本当に「潔い」。過剰な演出や説明過多なセリフはほとんどない。そしてどのシーンも絶妙な余韻があって、とにかく心に「残る」…なんだこの名作…

 

二人の最初は決して良い出会いじゃなかった。一国の王女の「アン」と、売れない記者の「ジョー」。アンは自分の普通とはかけ離れた生活とその忙しさに嫌気が差して宮殿を飛び出してローマへ逃げ出す。一方、ジョーはそんなアンの正体を知り、王女を連れ出して秘密のプライベートを記事にすればかなりのスクープになると考えていた。

アンはジョーが記者だということに気づいてないし、ジョーもまたアンの正体を知らないフリをして彼女に近づいた。そんな「ウソ」から始まった関係だった…

だからジョーはアンに対して「金のなる木」くらいにしか思ってなかった。適当におだてて、気持ち良くローマを観光させていれば良い画が撮れる。そのためにカメラマンのアービングを同行させアンの一挙手一投足をカメラに収めさせた。

反対にアンはジョーとのデートを心から満喫していた。ようやく手に入れた「自由」と自分を連れ出してくれる人に出会えた喜び。

 

この二人の想いの違いは見ててモヤモヤしつつも、本当に屈託のない笑顔でジョーとの冒険を楽しんでいるアンの姿と、少しずつ仕事を忘れてアンに心惹かれていくジョーのもどかしさに頭が唐田になりそうだった。

 

そんな夜、二人は街のダンスパーティーに参加する。身を寄せ合いながら、

 

「ブラッドレー(ジョー)さん。本当にありがとう、あなたはとても魅力的な人だわ」

 

とアン。

 

俺「すっ好きだ…一生守り抜く…」

 

…想いを伝えられる俺と違い、ジョーは素直に喜ぶことができなかった。なぜなら純粋に気持ちをぶつけてくる彼女と違って自分は金のために動いているから。そこでジョーの気持ちがはじめてハッキリと揺れるんですけど、アンが昼間アンの髪を切った床屋にナンパされちゃうんですよ。で、そのタイミングで仲間のカメラマン・アービングが来て「…し、仕事だ。王女と床屋、こ、これは良い記事になるぞ…」っつって強がんじゃねぇよバカ…

が、床屋とのダンスが終わると事件が。いきなり国の追っ手どもがやってきてムリヤリ王女を連れ出そうとする。

 

「遊びは終わりです、王女」

「たっ、助けて!ブラッドレーさん!」

「なにやってんだコラァ!」

 

 ボッギャァァアアアアア!

グシャアアアアアアア!

 

大乱闘の末、川飛び込みなんとか逃げ切るビショビショの二人…

 

「大丈夫か?」

「…あなたこそ」

「大丈夫。あはははっ…」

「ふふっ、ふふふふ…!」

「…ははは……はぁ…さっきの、君はすごかった…」

「あ…あなたも、まぁまぁね……」

「…」

「…」

 

 

こっっっ、コァァアアアア〜〜〜〜〜〜〜〜!

 

アンは自分の正体が気づかれてることを知っているし、ジョーもそれはは百も千も承知だ。それでも、それでもだ。いかずにはいられなかったんだ。…そのあと、二人はジョーの家で服を乾かすのだが、そのときのやりとりが鬼の切なさ…

 

(ラジオで流れる王女のニュース)

ブチッ

「ききたくない」

「そうだな」

「…もっとお酒をちょうだい」

「(コプコプコプ…)」

「料理ができなくて残念よ」

「学校で習った?」

「わたし、料理の腕はプロ級なのよ?お裁縫もアイロンがけもなんでも一通り習ったんだから!ただ披露する機会がないだけ…」

「……台所付きの家に引っ越したほうが良さそうだな」

「……そうね」

「…」

「…」

「もう行かなきゃ」

 

ガッ!

 

アンを抱きしめるジョー

 

「君に話しておくことがある…」

「言わないで…今は…なにも…」

 

 

「……着替えてくる」

「…」

 

アッァァアアアアアアア〜〜〜〜〜〜……

 

この時点で俺の手に持ってた牛乳は半透明になってる。

「台所付きの家に引っ越したほうが良さそうだな」。これは紛れもなく「プロポーズ」だ。決して結ばれることのない二人。それでも、それでもジョーはこの言葉を言わずにはいられなかった。逃れられぬ運命。それでも。

 

そして宮殿に戻ったアン。そんなアンに厳しい言葉を投げかける側近たち。

 

「1日を丸々無駄にして。両陛下にはなんて言えばいいか」

「病気だったけど回復したと言ってちょうだい…」

「…『自覚』してください王女。私に仕事があるようにあなたにも任務があるのです」

「その言葉は二度と使わせないわ。私が『自覚』をしていなければ、今夜わたしは…帰らなかったわ…あるいは、永遠に…」

 

牛乳が透明になった。そう告げるアンの顔つきは最初に宮殿を飛び出したときのアンのそれとはまるで違ってて…幼さの残る少女から、凛とした大人の女性になっていた…。あ、ああ、ふ、振り込みたい…

 

一方、ジョーはひとり「あること」を考えていた。そこに昨日の写真を持ってやってきたカメラマン・アービングと、記事を催促するジョーの上司。

「ジョー記事はどこだ」

「ありません」

「おい、ジョー。昨日の写真を見ろ。よく撮れてるぞ」

「やめろ」

「見てみろよ」

「やめろ」

「なにすんだよ」

「なにをしてるんだ早く記事と写真を見せろ」

「記事はありません。写真も」

 

しぶしぶ帰る上司

 

「…どういうことだジョー」

「記事は…本当にない」

「ジョー…お前…」

「…すまん」

「…本当によく撮れてるんだ…見るか…?」

「『はじめてのタバコ』『真実の口』、ハハハ…」

「…これなんか、見出しももう決まってるんだ…ほらこの写真にこの文章を載せて…」

「こいつはすごいな…!」

「傑作だろう…?『ボディーガード危機一髪』!」

「ハハハハ…!それよりもこれはどうだ…?『戴冠の儀式』!」

「うまいこと言うじゃねぇか…!ハハハ!」

「ハハ…」

「…」

「…」

「…これが彼女の仕事なんだよ、常にカメラに追われる。冷静になれ、ジョー」

「…わかってる…お前が写真を売るっていうんなら邪魔はしない、良い値がつく」

「…」

「アービング、記者会見には?」

「行くのか?ジョー」

「…仕事だからな」

 「…またあとで」

 

このジョーの葛藤も辛い、辛すぎる。もうジョーにはアンの記事を出すことはできなかった。たとえ記者としての仕事がなくなろうとも、アンを裏切るような真似は、できない。そしてカメラマンのアービングは二人の姿をずっと撮り続けていた、それでもジョーほどの想いはない。だが、このジョーの本気の目を見てなにかを思ったアービング…

 

迎えた記者会見。記者たちの中にジョーとアービングを見つけるアン。そこで全てを悟る。

ひとりの記者がアンに質問を投げかける。

「国家の友好関係についてどうお考えですか?」

「守られると信じています。『個人の関係』が守られると同様に」

アンの言葉を聞き、口を開くジョー

「わが社の見解を述べますと…」

 

じょ、ジョー…?

 

「王女の信頼は裏切られないでしょう」

 

ジョー…っっっっっ…!

 

またある記者が尋ねる。

 

「最も気に入った訪問先はどこですか?」

 

「それぞれに忘れられない思い出がありますが…」

 

あ、アン…?

 

「…ローマの思い出は一生忘れられないでしょう…」

 

アン…っっっっっ…!

 

最後に記者一人ひとりに挨拶をするアン。

 

「アービング・ラドヴィッチです」

「……はじめまして」

「…お渡ししたいものが」

 

あ、アービング…?

 

「ローマ訪問の記念写真です」

 

アービングっっっっ…!!!

 

そして二人の最後の会話が…

 

「…ジョー・ブラッドレーです」

「…お会いできて…光栄です…」

 

…うう、このシーン、他の記者に対しては会釈か軽い「はじめまして」「こんにちは」と挨拶程度の言葉しか交わさないのにジョーに対しての「…お会いできて…光栄です…」とせめてもの、せめてもの言葉を贈った。最後に、王女として記者として。

そして涙と笑みを浮かべ、互いに目と目でなにか頷いたあと、その場を去るアン。ゆっくりと会場を後にするジョー。その背中はどこか悲しみを帯びていた…

 

アン…ジョー…わかってる…俺は全部わかってるから…

 

最高…最高の映画だった……

 

…店を出て、ローマの休日の切なさとオードリー・ヘップバーンの美しさに想いを巡らせながら道歩いていたら、大通りでジジイに肩をバーン!された男の休日。 

 

ローマの休日(字幕版)

ローマの休日(字幕版)

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