むかし、駅前にいた占い師のババアに「あなたの前世はサイよ」と言われたことがあった…
俺は耳を疑ってババアに「さ、サイ?あの、動物の?」と聞き返した。
するとババアは「そう。動物のサイ。間違いないわ。あなた負けず嫌いでしょ…前世がサイの人の特徴よ」と答えた。
俺は頭の中が真っ白になった…ウソだろ…まさか、自分の前世が動物、しかもサイだったなんて…すぐには信じることができなかった…それもそうだ…俺には前世がサイだった自覚も記憶もないのだから…
ま…「負けず嫌い」だからサイってどういうこと…?いや…たしかに…人よりも負けず嫌いなところはあるが……
それから何日も「前世」というものについて考えた…食事もノドを通らない日が続いた…前世とはいったいなんだろうか…本当に自分の前世がサイだったとしてサイの時の俺は自分がサイだと言う自覚があったのだろうか…そもそもサイのみならず…人間以外の生物に生まれた場合…自分の「意識」というものはあるのだろうか…
たとえば時々、動物が主人公の物語の中でこの世界で暮らしている自分の心情をまるで人間かのように吐露しているシーンがある。
「そんなこんなでこの飼い主とボクの生活は続いていくのニャ〜〜」
こんな感じのやつだ。
果たして俺は自分がサイだったとき、自分の「こころ」はあったのだろうか…
「今日もいい天気だサイ〜〜」
などと思うことができたのだろうか…
サイ界のなかで俺はどういった立ち位置だったのかが気になってくる……親友は…恋人と呼べるサイはいたのか…
そもそも前世には「スパン」があるのか…?人間としてこの世に生を授かるゼロコンマ1秒前までサイだったのか…寿命なのか他の動物に食べられたのかはわからないが、サイの俺が死んで意識がなくなった次の瞬間にはもう人間の赤ん坊としてパッと意識が切り替わるということなのだろうか…ということは、仮に俺がいま死んだとして来世に人間以外の動物に生まれた場合、人間の俺が死んだ次の瞬間には「うわっ。つぎ俺カエルかよ」という具合に生まれ変わっているということか…?
そうだとしたらサイの時の記憶が少しもないのはおかしい…いや…待て…赤ん坊として生まれてしばらくは「自我」というものがない…だとすれば生まれてしばらくは前世でサイの記憶があったが人間として自我が芽生えていく段階でサイの記憶が失われてしまった、と考えるのが自然なのではないだろうか…
だとすれば、サイの時の記憶がないのも頷ける…そうか俺はサイだったのか…だんだん自分がサイであったことが当たり前のように感じる…目を閉じて胸に手を当て、自分がサイであることを自覚すると、心の奥底に眠っていたサイだったころの記憶が蘇ってくるような気がした…サイとしての人生いやサイ生が…
ー
俺、サイ也。県立サイ東高校に通ってる高校サイ!
勉強も運動も中の中、他サイに誇れるようなものなんてなにひとつなかった俺。。。でも、ある出来事がキッカケで俺のスクールライフ、いやスクールサイフはキラキラと輝きだしたんだ…
席替えで偶然となりの席になったサイ美…
「サイ也もラブサイケデリコとか聴くんだ…?」
「え…?サイ美も?」
「いいよね、あとMr.ChildrenのSignとか好きだな…」
「お、俺も!あとサイ藤和義とか!」
そんなササイな共通点から…俺たちはすぐに仲良くなった…
「わたし…将来デサイナーになりたいんだよね…」
サイ美はサイ縫が得意な子だった…将来は洋服を作る仕事をしたいと…そんなサイ美を俺はどんなサイ難からも守りたいと思った……
「ねぇ…わたし…サイ能ないのかな……」
「そ、そんなことねぇよ!サイ美のサイ能は俺が保障する!」
「あ…ありがとう…サイ也…」
「サイ美……ずっと…サイ美の夢を隣で応援したいんだ…サイ胞の全部で君を守りたい……」
「サイ也……」
「これっ…よかったらっ……」
「えっ…指輪…?」
「サイズ…合わねーかもしれねーけどっ……!」
「…サイ也…サイ好き……」
こうして俺とサイ美の交サイがスタートした…サイ玉旅行…サイゼリヤデート…サイクリング…サイ終電車…サイ判傍聴…どれも甘く…サイ高の日々…
でも…そう長くは続かなかった……
高校卒業後…俺は関サイの大学に…サイ美はサイパンに留学することなった…
「わたし絶対に夢を叶えるから…サイナラ……」
…それからサイ美とサイ会することはなかった…
サイ美……幸せにしてやれなくて…ごめんなサイ…俺はサイ低な男だ……
……
…後日、俺はまた例のバアさんに会うことができた…
「バアさん、このあいだはありがとう…バアさんのおかげで自分の「本当」がわかった気がするよ…サイだったときの記憶もだんだんと戻ってきた…なぁ…ひとつ聞いてもいいかな?俺の前世がサイだったっていうことはわかったけど、ちなみにサイの前はなんだったんだい…?」
するとバアさんは俺の目をジッと見つめたあと、こう答えた
「カナブン」
「か…カナブン…?あの、虫の…?」
「そう。虫のカナブン。間違いないわ。あなたアウトドア派でしょ?それは完全にカナブンの特徴ね…」
…
お…
…お…俺1ミリもアウトドア派じゃねぇ…めちゃくちゃインチキじゃねぇかコイツ…なにがサイだよサイ悪だよ