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ミクスチャーブログ

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漫画『木根さんの1人でキネマ』は美女化した俺

ある日メールに突然、

「『木根さんの1人でキネマ』という漫画の主人公の木根さんと、かんそうさんがとても似てると思ったのでぜひ読んでください!」

という趣旨のメッセージが届き、正直まったく意味が分からなかったのですが、とりあえず表紙を見てたんですが、

(C)アサイ/白泉社

どこが?

 

「俺がこのショートカット赤メガネ色白肌スベスベ巨乳美女と、似てる?毛むくじゃら肌カサカサ男だぞ俺?浜辺美波と範馬勇次郎くらい違うが…」

 

と、あまりの類似点の無さに最初はドン引きしてたんですが、せっかくだからと仕方なく1巻を読んでみました。

 

「俺じゃねぇか」

 

気がつけば涙を流していました。外見や性格ではなく性根の部分、心が俺。いや、むしろ主人公がどうこうではなく、この漫画そのものが俺…

 

主人公は、主にホラーやバイオレンス、SFを中心とした映画が大好きで観た作品の感想を夜な夜なブログにアップする特殊性癖の持ち主・木根真知子。

独り言のデカさから、近隣住民に毎晩苦情を入れられるほどの犯罪者予備軍にも関わらず、普段は映画狂いであることをいっさい隠して社会に溶け込みバリキャリとして働いているギャップを持ち合わせた変態アラサー。

タイトルで「映画好きのかわいい女の子がおすすめの作品を紹介するほのぼのレビュー漫画」だと思ってて軽い気持ちで読んだら脳が破裂しました。

この漫画は、そんな木根さんを主軸とした内面がキモすぎるキャラクターたちによる、古今東西あらゆる映画に対する偏見と暴論を「やかましすぎるコマ割り」と「常軌を逸した文字量」で畳み掛ける、発狂ギャグ漫画だったのです。

 

1本目(1話目)『ターミネーター3』から、

(C)アサイ/白泉社

(C)アサイ/白泉社

(C)アサイ/白泉社

憎い…映画好きって言うとおすすめ聞いてくるくせにおすすめ言うと「え?何それ?」みたいな顔した挙げ句見ようともしない奴が憎い

おすすめ見たくせに「面白いけど見た後何も残らない」とか訳の分からない負け惜しみ言う奴が憎い

「日本中が泣いた」って映画で泣いてないって言うとまるでピー(自主規制)を見るかのような目で見てくる奴が憎い

女だてらに変わった映画の趣味アピールしてるの(笑)…とか言ってくる奴はくびり殺してやりたい

でもいいの!今の私にはネットがあるから!!(小声)

ネットなら話の合う仲間達にいつでも会える、もう孤独じゃない!ビバインターネット!でもスカイネットだけは勘弁な!!

ネットは糞ね!!アンタ達みたいな映画見るセンスない連中こっちからお断りよ!群れて映画なんか見てられるかっつーの!!へーんだ!ファックファックファーーーック!!

(略)…

欲しい…映画友達欲しいよぉおおお!!

 

恐ろしいほどに情緒不安定の、自意識垂れ流し暴れ狂いショートカット赤メガネ色白肌スベスベ巨乳美女が、そこにいました。

なにかにハマることで歪んでしまった人間の圧倒的「イタさ」を、映画の内容を交えつつ目を背けずに真正面から、アホみたいな熱量で描ききっている。

「映画オタク」と言われることに嫌悪感を持ち自分はあくまで「映画マニア」だと他と一線を引くプライドの高さや、話題作に対し

(C)アサイ/白泉社

「え〜〜〜〜〜それって若者が不治の病にかかって上映時間2時間かけてゆっくり死んで行く映画群のことですかぁ~おぇええええええええええええ!!」

(2本目「バッド・ボーイズ2バッド)

と全方位に中指を立てる性格と底意地の悪さ。

この「あるある」と「恥ずかしさ」が絶妙に入り乱れたセリフ回しが最悪で最高で、それゆえに起こる共感性羞恥心にめちゃくちゃ死にたくなるんですが、読み進めるたびにトリップしてどんどん気持ち良くなってくるのです。

そして、冒頭でも書いた1ミリも読ませる気ないだろとしか思えない「常軌を逸した文字量」。これが、この漫画における「核」とも言える部分で、例えば30本目『君の名は。/ホラーVSアニメ』で普段はまったくTVアニメを観ない木根さんが、短時間で大量のTVアニメを摂取し、

(C)アサイ/白泉社

私まだ「けいおん!」途中だもの いいわね日常系「ひだまりスケッチ」「ゆゆ式」「三者三葉」私もあんな高校生活送りたかった いやキョーコもみんなも大好きよ でも野蛮人じゃなくてアニメみたいな可愛い女の子とゆるふわな日常を送りたかった いやキョーコもみんなも大好きなんだけどね 「涼宮ハルヒの憂鬱」も良かったわ あれは日常系ってよりセカイ系なのかしら? 「エヴァ」の最終回に求めてたものが「ハルヒ」一期の最終回にはあった あーいうのでいいのよあーいうので そうそうマミるの意味が「魔法少女まどか☆マギカ」見て分かったわ 佐藤がさやかちゃんに感情移入しすぎて鬱陶しかったけどぶっ続けで見ちゃった ビッッックリしたよねマミる 「ガルパン」はいいぞ 「カウボーイビバップ」「PSYCHO-PASS サイコパス」はこれぞジャパニメーションって感じね 超好み 「攻殻機動隊」はテレビ版も面白かった この辺は私もBD買っちゃう 話題の「けものフレンズ」も見たよ 不思議なノリだけど何か見ちゃうわね 今まで見てなかったからネットで話題になってもニュース読まなかったけどこれ絶対2期あるよね楽しみ~ そして満を持してそろそろ「ガンダム」に手を出してみようと思ってて それでねなんか「スター・ウォーズ」みたいなこと聞くけど、あそこの銀河一厄介なファンと違ってガンダムファンは大人だと思うから思い切って聞いちゃうけど ガンダムってどの順番で見たらいいの?

 

いかがだろうか

 

読めるもんなら読んでみろと言わんばかりの文字の壁。文字酔いでゲボ吐きそうになりました。ハンターハンターとタイマン張れる文字量。

恐るべきは、この「やかましすぎるコマ割り」と「常軌を逸した文字量」をただの「フリ」に使ってしまう所。嫌がらせかと思うほどギチギチに詰め込まれたコマと文字の洪水によって眼球が死ぬギリギリのタイミングで、その話における「一番言いたいこと(大ボケ)」をバカデカい「魅せゴマ」を使って表現してくる。

そうすることで、読者の脳髄に刻み込ませ、最終的な主張を納得させる。見事過ぎて立った鳥肌が爆発したのが、7本目『ジブリ映画』。30ページ以上も犬も食わない不毛な議論をさんざん描いておきながら、最終的に

(C)アサイ/白泉社

「人それぞれでしょ」

で終わらせる。この構成力と緩急の上手さがあまりにも天才だった。

そして、『木根さんの1人でキネマ』には木根さん以外にも、話題作くらいしか映画を見ない人間なのに、一度見た作品はポリコレ視点で死ぬほど正論ぶつけて語りまくるダルい評論家タイプの「佐藤さん」や、家族にドン引きされるほどBL好きなアニメオタクの「キョーコ」など、多種多様の「イタい人間」たちが登場します。

この漫画が素晴らしいのは、そのイタさをただ手放しで肯定するのではなく、キモい部分はちゃんとナイフで刺しつつ、「それでも生きてていいんだよ」とそっと温かい毛布をかけてくる「優しいだけじゃない優しさ」がある。

現在は10巻まで続いているんですが、回を重ねるごとに登場人物も増え、扱うテーマも広がった。誰も取りこぼさない。本当の意味での「多様性」がここにはあった…

そして「映画友達欲しい」とあれだけ願っていた木根さんが、なんの遠慮もなく自分を出すことのできる仲間がたくさんできたこと…それが何より嬉しい…『木根さんの1人でキネマ』本当に良い漫画だ…

 

…ただ、ひとつ。俺は木根さんですが、ここだけは違う。

 

木根てめぇ…

 

人間関係充実しすぎて全然ブログ書いてねえなァァアアアアアア!!!!!!!もっと!!!!ブログを!!!!!!書け!!!!!!!!