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和山やま『カラオケ行こ!』の続編『ファミレス行こ。 上』マジで面白すぎる早く「下」くれ

ファミレス行こ。 上 (ビームコミックス)

和山やま先生の『カラオケ行こ!』の続編『ファミレス行こ。 上』マジで面白すぎる。たのむ、早く「下」くれ。

前作『カラオケ行こ!』は、合唱部に所属する中学生・岡聡実が、歌が上手くなりたいヤクザ・成田狂児に毎週拉致軟禁されカラオケの練習に付き合わされる1巻完結の漫画。

中学生とヤクザ、絶対に出会うはずのない2人が「カラオケ」という場所で、友達でも親子でも兄弟でも恋人でもない名前の付けられない謎の関係性を築いていくんですが、独特なセリフ回しと、心地良いテンポ感、過度な演出に頼らずに、ただ人間を丁寧に描いており、もはや「現実」。かと言って、実写ではできない絶妙な心の機微の描き方は漫画のコマ割りだからこその面白さ。

面白い通り越して悔しさのあまり、キンドルの画面に何度も顔面こすりつけながら、俺が描いたことにしてほしい、もしタイムマシンがあるなら速攻で過去に戻って「和山やま」よりも先に「洋川かわ」としてデビューしたい、そんな危険思想が生まれてしまうほどでした。

 

和山やま先生の凄さは良い意味で「主張がない」ことだと思っていて、もちろんあの時代の流れに逆らったような劇画調の絵柄や、シュールという言葉では片付けられないトボケながらも洗練されまくったワードセンスから和山先生の個性はジョボジョボ漏れてるのに、そこに押し付けがましさは一切見えない。

キャラが作者の代弁者になってるんじゃなくて、ちゃんと「キャラとキャラ」の会話になってる。たとえばギャグ一つとっても「これ描いてるワイ、オモロいでっしゃろ」みたいなイヤらしさがなく、ちゃんと言葉が読者ではなくキャラに向いていて「こいつ絶対こんなこと言わないだろ」という違和感やストレスが1ミリもない。

描きたい物語があって、それに向かってキャラが動かされているんじゃなく、キャラが動いた先に自然に物語が生まれていくような感覚。「裏に隠された伝えたいメッセージ」みたいな余計なことは考えずに、物語そのものを純粋に楽しめる。

それを踏まえて読む『ファミレス行こ』は、成田狂児と出会ってから4年後の大学生になった岡聡実が「ある目的」のためにファミレスでバイトを始めるところから再開する物語なんですが、そもそも、心の底から「ちびまる子サザエレベルで一生続け…」と願っていた2人の物語がまた読めるという時点で、読む前からすでに2024ベストに入ることは確定、その上で期待をまったく裏切らない最高の漫画だった。

『カラオケ行こ。』『夢中さ、君に。』『女の園の星』よりもギャグ風味は薄く淡々と進んでいる印象で、一言で言えば「大学生がファミレスでバイトを始めた」ってだけのほのぼの日常系ストーリなんですが、とにかく人物描写が引くほど上手いんですよ。バイト先の変な先輩や、ファミレス客の変なオッサン2人組や、同じアパートに住んでる変な女など、魅力的な登場人物たちが全員少しずつ謎を抱えており彼らの動向によってミステリ的な要素も生まれていく。

一つひとつの謎は小さくても、リズム良く「種明かしをする→次の謎が生まれる」と並行して常に別の謎が散りばめられてくので、どんどん読み進めていくことできる。そうやって、少しずつ点でしかなかったキャラクターたちが線と線で繋がれていく快感。

そして聡実と狂児の関係性も、より複雑に形容しがたいものとなって帰ってきました。「カラオケ」という目的で会っていた頃とは違う。4年が経ち、心も身体も大人になっていく聡実と、一見なにも変わらないように見える狂児。

 

おい…聡実…狂児…お前らはいったいどうなりたいんだよ……?ラストの「アレ」はいったいなんなんだ………?教えてくれお前らの幸せとは…………?

 

そうつぶやきながら泣いた。『ファミレス行こ。下』をすぐに読めないことに、彼らの人生の続きを知ることができないことに絶望して泣いた。ファミレスなのに、こんなおあずけ食らうことがありますか…?

とりあえず今は和山やま先生が生み出した全ての作品を目が溶けるまで読み狂いたい。ファミレスで…