藤井風の新曲『満ちてゆく』。まずはサビの歌詞をご覧ください。
明けてゆく空も暮れてゆく空も
僕らは超えてゆく
変わりゆくものは仕方がないねと
手を放す、軽くなる、満ちてゆく
歌詞に込められた想いや、メロディの作り方、アレンジの仕掛けなど、そういう話は蔦谷好位置か、いしわたり淳治に任せるとして、俺が何より言いたいのはサビ終わりの
「満ちてゆゥッッ………くゥウウウウウウウウゥウウゥウウウ………」
完全に常軌を逸したロングトーン、この一点に狂ってしまいました。「満ちてゆ」で一度曲が停止したかと錯覚した次の瞬間、とんでもない長さの「く」が耳を襲ってくる…
なぜ、こんなにも『満ちてゆく』の「満ちてゆく」を聴くと心が満ちあふれるのか。考えました。
『満ちてゆく』の「満ちてゆく」における一番のポイントは、一輪として同じ花は咲かないように、
「一つとして同じ満ちてゆくはない」
ということ。藤井風によって『満ちてゆく』のメロディ、『満ちてゆく』のアレンジに適した様々な「満ちてゆく」が散りばめられている。
『満ちてゆく』の曲中「満ちてゆく」は計5回登場する。一つひとつをじっくりと聴いていきたい。
まずは、1回目の「満ちてゆく」。1番サビ終わりの
「満ちてゆゥッッッ……………くゥウウウウウウウウゥウウウウヴゥウウウ…………」
ピアノのみのシンプルなアレンジで曲は進行していくのだが、この「満ちてゆく」は曲の雰囲気に合わせるかのように、藤井風は声量もトーンも抑えている。まるで眠れない俺を寝かしつけるような、絵本を読み聞かせるような優しい「満ちてゆく」だった。
さらに動画1分52秒当たりの「ヴ」の声の掠（かす）れ、ここに藤井風の自然な姿を見た気がした。この「満ちてゆく」によって「藤井風」という存在がグッと近くなる。藤井風が私の中に満ちてゆく。
いるよ、風はいつもそばで満ちているよ。そう言われた気がした。
2回目の「満ちてゆく」はその後すぐに訪れる。
「満ちてゆゥゥウッ……くゥウウウゥゥウウウウゥウウウゥウウゥウウウウウウヴゥヴウヴン……」
1回目の「満ちてゆく」と比べて少しタメの長い「満ちてゆゥゥウッ……」なのが分かるだろうか。
さらに「くゥウウウゥゥウウウウゥウウウゥウウゥウウウウウウヴゥヴウヴン……」とキーを少し上げ、語尾は「ヴゥヴウヴン……」と掠れさせることで、まるで満ちていたものが消えてしまったような切なさに満ちている。満潮の海が干潮になった時のような「満ちてゆく」だった。
3回目の「満ちてゆく」は2番サビ終わりだ。
「満ちてゆゥウウッッッ…！くウウゥウウウウウウウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥウウウウゥウウウォォオオオオォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……ヘェエエエエエエエエエエ…」
ピアノだけだったアレンジから少しずつシンセサイザーが満ちてゆき、曲に奥行きが満ちてゆくのに合わせて、藤井風も一つギアを満ちてゆく。
2回目の「満ちてゆゥゥウッ……」よりも力強い「満ちてゆゥウウッッッ…！」。そしてミックスボイス寄りではく、どちらかと言えば地声に近いような「くウウゥウ」
さらに途中から「ウ」を「オ」と変え『満ちてゆく』の世界観を余すことなく満ちてゆく。最後はアレンジに合わせ満ちてゆくように「へ」で満ちてゆく。『満ちてゆく』がより満ちていっているのが誰の耳からも明らかな「満ちてゆく」
4回目の「満ちてゆく」はDメロからの
「満ちてゆくゥゥウウウゥウウゥゥゥゥウゥゥウゥウゥゥウウゥゥウウゥウウウウウゥウウウウウウウウゥウウウーーーーーゥウウウゥウウウゥウウゥウウウゥウウウウウウウウウウゥウウゥウウゥウウゥウゥウウウゥウウウウウウウウウウウウウウ……アァァアアア」
この「満ちてゆく」は本当に満ちていた。「満ちてゆ」でいっさいタメずに「満ちてゆく」と歌う、これまでの「満ちてゆく」の常識を覆す「満ちてゆく」
特筆すべきは「満ちてゆく」の部分。
「くゥゥウウウゥウウゥゥゥゥウゥゥウゥウゥゥウウゥゥウウゥウウウウウゥウウウウウウウウゥウウウーーーーーゥウウウゥウウウゥウウゥウウウゥウウウウウウウウウウゥウウゥウウゥウウゥウゥウウウゥウウウウウウウウウウウウウウ」
と、裏声を満ちさせて満ちていってるのが満ちているだろうか。「満ちてゆく」史上、最も満ち足りた美しさを持った「満ちてゆく」
そして訪れる5回目の「満ちてゆく」。幾重にも満ちた藤井風のコーラスが満ちてゆき満ちたハーモニーを満ちてゆく。
「満ちてゆゥッッッ……くウゥウウウウウゥゥウウウウゥウウウウォオオオオオオオオオァァオオオオオァアアアァァアアアアアエイェエエエイイェエエイエホホォオオオオオオオオォオオオオォオオオゥホオホオォォゥホホッウゥウフホオゥイエエェイェイエィエェイェイェイエィエィエエエエエエエイエェイイエエエエエエイフゥウウウウウウウウウゥウウウウウフゥウウウウウウウウウ…………」
『満ちてゆく』で満ちていった5回の「満ちてゆく」。優しい「満ちてゆく」、切ない「満ちてゆく」、力強い「満ちてゆく」、美しい「満ちてゆく」、そして最後の「満ちてゆく」。
全ての満ちてゆくが満ち合い満ちたとき私の心は満ち満ちに満ちあふれました…
満島ひかりさん、満島真之介さん、満島姉弟もぜひ『満ちてゆく』の「満ちてゆく」を満ちて満ちてみてください。
