僕の地元は北海道の東にある「クシロ(苦死露)」という場所なんですが、別名『霧の街』と言われ、1年の3分の1は霧、濃霧に包まれてる暗黒の地です。真っ昼間でも滅多に青空を拝めることがない、リアル・レガイア伝説、リアル・サイレントヒルです。
そのへんの子供に声をかけたら「えっ?お兄ちゃんもしかして外の人?じゃあ『アオゾラ』ってやつを見たことがあるのかい?いいなぁ…ぼく絵本でしか見たことないや…ねぇお兄ちゃん…ぼくも大人になったら『アオゾラ』見られるかな…」とか言われるし、そのへんの老人に声かけたら「おお…まさかお主『外』の人間か…?目に光が宿っておる…」とか言われます。
駅前には渋谷のスクランブル交差点並みにバカデカいメインストリートがあるんですけど、歩行者なんて数えるほどしかいません。
日曜だろうが祝日だろうが、ハトのほうが数多いんじゃねぇかってくらい人間歩いてないですし、商店街もテナントの9割が空き店舗、誰もいない通りにひたすら仏壇屋の街頭アナウンスだけがこだましてて、終末感が心をエグってきて最終兵器彼女の終盤の雰囲気です。
クシロの駅前には「アベニュー946(旧・長崎屋)」という巨大ショッピングモールがあり、クシロに住む人々の唯一のいこいの場になっていたんですが、このあいだ数年ぶりに行こうと思ったら
「パチンコチェーン・ベガスベガス建設予定地」
になっててショックでゲロ吐き散らかしました。やり口がドラクエ6のデスタムーアと同じ。希望を失いかけた人間たちに賭博場を与え、さらなる欲望をあぶり出す大魔王が支配する街、それがクシロなのです。
駅前商店街を奥に進むと「末広町(すえひろちょう)」っていうススキノとか歌舞伎町の数億倍のヤバさを誇る歓楽街があるのですが、世界観ほぼ『龍が如く』です。
ガキのころ父親に「いいか、絶対に末広町には足を踏み入れるな。父さんとの約束だ」と両肩を掴まれながら言われました。写真左の人を御覧ください「車道」「歩道」の概念がありません。
ちょっとそのへん歩こうもんなら高確率でチンピラに絡まれリアルファイトが始まるので、近くにあるチャリとか三角コーンでヒートアクション喰らわせるしかないですし、夜になるともはや「法」の概念は消え、酒池肉林、狂乱の宴がそこかしこで始まります。
倫理観終わってるカップルの路チューとかマジでかわいいもので、一回「路マン」してました。見られても全然やめなくて怖くて泣きました。
謎のキモい銅像。
…こんな状況だったら失礼な話「いつ滅びてもおかしくない」と思ってるんですが、この絶望と欲望の街がなぜギリギリ形を保っていられるかというと理由はただひとつ。
メシめっちゃうまい
これにつきます。
和商市場・勝手丼
「和商市場」。極上の海産物が一手に集まってくるオールブルー。
和商市場の一番の名物といえば通称『勝手丼』。ライスを手に持って市場をねり歩きながら、気に入った具材を放り込んでいって自分だけの「オリジナル海鮮丼」を作ることができます。ちなみに米出してくれてるばあさんに「おねえさん」って言うとオマケしてちょっと多めに盛ってくれます。
写真みたいにバランス良くいろんな具材を乗っけても最高にデラウマなんですけど、勝手丼最大の魅力は「なに乗せてもいい無法。バーリトゥード」ってとこで、サーモン好きなら「サーモンサーモンキングサーモンオーロラサーモントラウトサーモントキシラズトキシラズ」みたいな『サーモン地獄丼』にしてもいいですし、イクラで米を埋め尽くす『無限イクラ丼』にしてもいい。写真くらい乗せると普通に1500円超えてきますけど、別に金なきゃ普通に白メシとカニ汁とカレイの唐揚げだけで食ったって涙出るくらいうまいのに、500円もしない。ここが天国です。
この自由度って子供の頃にはじめてレゴブロックで遊んだ時のような「これからなにを作ろうかな?」という『自分はなんでもできる、なんにでもなれる』感、ここでしか味わえないです。
ただ、観光客向けなとこは否めなくて別に単価安くないですし、リュックでも背負って行こうもんなら普通にカモ扱いされるのでジャージとか「地元感」出す格好で行くのがオススメです。
インデアン・インデアンカレー
駅前商店街をさらに中に進むとある『インデアンカレー』。ここは人類が辿り着いた究極のカレーショップ。 (本店はオビヒロ)
一見、なんの変哲もないふつうのカレーなんですが、一口食べるとわかります「これは違う」「いままで俺が食ってきたカレーはカレーじゃなかった」と。ふんだんに使用された牛肉と数十種類のスパイスで熟成されたルー、通称『インデアンルー』は誇張でもなんでもなく一瞬で舌溶ける。近くに他のカレー屋あったら3日で潰れるレベル。
なにが恐ろしいかというと、値段が税込みでたった「453円」。この味でこの値段、「宇多田ヒカルって15歳で『First Love』作ったの!?」と同じ衝撃でした。
ジョイパックチキン・カレーチキン
鳥取大通のスーパー『ビッグハウス』店内にあるファーストフード店『ジョイパックチキン』。
ここのオリジナル商品、カレー風味のフライドチキン『カレーチキン』は別名「麻薬チキン」って言われるくらい中毒性のある味で、食ったら脳シビレます。ホントに合法なのか疑ううまさ。つけあわせのフライドポテトとコーラと一緒に食おうもんならうまさで頭おかしくなります。
ビッグハウスの隣にケンタッキーあるんですけど、あまりにジョイパックチキンがメジャーすぎてカーネル・サンダースの像が土下座してます。
そしてこのビッグハウスがヤバいのが店内にミートソーススパゲティに豚カツを乗せた「スパカツ」で有名な『泉屋』も入っているという衝撃。
更に目と鼻の先にアイススケート場もあり、この周辺だけでクシロ制覇できると言っても過言ではありません。昼飯はジョイパックチキンでカレーチキンを食い、スケートをして遊び、夕飯は泉屋のスパゲッティを食うというのが鳥取大通の住人の最強の黄金パターン、生の実感はここで味わえます。
※ジョイパックチキン閉店しました
他にもクシロには『泉屋』のピカタ、『南蛮酊』のザンタレ、『ラーメンの高橋』の塩ラーメンと、数えきれないほどの楽園メシがあります。たしかに人間は悲しくなるほどいないですし、これといった観光地も特にありません。
レジャー施設『フィッシャーマンズワーフmoo』でバケモンみたいにデカいチョウザメがタダで見られるくらいです。正直、考えつくスポット全部回っても1日で回りきって飽きるレベル。
たしかに釧路は、絶望の街かもしれません。クシロに住む人と接してみると分かるのですが、この街の人々からは「生き抜こうとする意思」を物凄く感じるのです。
どんな辛い状況だろうが、どんな逆境だろうが、うまいもん食って今日も一日頑張ろう!というパワーが溢れている。そしてそれは、どんな魔王にも決して消せないと僕は思います。
だから、ホッカイドウっつったらサッポロとかハコダテとかみんな行きがちですが、ぜひクシロに来て、うまいもんバクバク食って、金ジャブジャブ使って、経済ブン回してやってくれませんか。
そして苦死露を釧路に戻してやってください。