ヒップホップユニット・Creepy Nutsの作品の中から特にヤバいクレイジーなラップを10選紹介したい。
※2019/08/27公開
※2020/08/15更新
Creepy Nutsの記事を書くにあたり、まず行ったのが「すべてのリリックの子音と母音の分解」。
ラジオ『Creepy Nutsのオールナイトニッポン0』の菅田将暉との番組間での韻の踏み合いのなかで、R-指定が「菅田将暉が話したすべての言葉を子音と母音に分解」し、ステルス韻の『R-指定(aauiei)』と『高槻駅(aauiei)』に気が付いたという一幕があった。
ならばCreepy Nutsというアーティスト、R-指定というラッパーを語るうえで、最低限リリースされたすべてのリリックを子音と母音に分解して初めてその資格を得るのではないかと思った。
そして始めて2秒で後悔した。分解すればするほど出てくるライムライムライム、聴いてる俺はただの人形、掌で踊る今日も明日も、誰かに委託したいすぐさま、痛くなる頭、情けないこのザマ、自分に言いたい「お疲れ様」はじめよう宛名のないレター。
1.『ぬえの鳴く夜は』
勝算は無しハナから綱渡り oua(n)aai aaaa uaaai
採算度外視の憂さ晴らし aia(n)oaiio uaaai
一物も与えてくれんかった天に iiuuo aaeeue(n)aa e(n)i
弓引いたいつかのワナビー uiiia iuao aaii
楽器一つも弾けないくせに ai iouo ieaiuei
ほら楽しむ器ならあるちゃっかり oa aoiuu uaaa au auai
ほめられたもんじゃない犯行動機 oeaeao(n)aaai a(n)ououi
We are自称ミュージシャン反面教師 uiaa iiouiuiia(n) aeioui
「勝算は無し」「採算度外視」「憂さ晴らし」「綱渡り」、「天に」「ワナビー」「くせに」、「犯行動機」「反面教師」と息つくヒマもなく次々と踏み続けサビに入る。そしてフレーズのケツがすべて[i]で統一され、全体としても明らかに意識して母音[a][i]を多めに使っている。
さらに恐るべきは6行目の「ほら〜」の部分、最初はこのフレーズだけ浮いているような印象を受けたが「楽しむ器=楽器」で5行目とかかっていた。耳で聴くだけじゃなく、文字を読むことではじめてわかるダブルミーニング、the beginning.
2.『だがそれでいい』
しまむら、イオン、タウカン、ピコ iaua io(n) aua(n) io
英字プリント 胸元にヒモ iiui(n)o uaooiio
青春時代の黒歴史の遺物を歌った『だがそれでいい』、ここのフレーズはさすがに「ただ単語羅列してるだけだろ」と思ってたが分解して確認すると「しまむらイオン」「タウカンピコ」「英字プリント」「胸元にヒモ」全部ケツが[io]。いよいよわけわからなくなってきた。
Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) / だがそれでいい【MV】
3.『犬も食わない』
そんな野蛮な奴らに o(n)a aa(n)aauai
取り入るため犬が猿芝居 oiiuae iuaauiai
アホを喜ばすためアホのフリ aoooooauae aooui
腹でバカにしてても首輪つき aaeaaiieeo uiaui
「な奴らに」「猿芝居」「アホのフリ」「首輪つき」…「文章として一切破綻してないのに完璧なライム」、教科書1ページ目のようなリリック。そして言うまでもなくケツがきっちり全部[i]。
4.『板の上の魔物』
例えばradioから aoeaaioaa
深夜のTVshowまで i(n)ao iiiiouae
異常なトークショーから ioua oououaa
いつものこのステージ上まで iuoo ooueeiouae
毎日ベロ筋肉痛で握るマイクロフォン aiii eo i(n)iuuue iiu aiuoo(n)
売れまくりのピンサロ嬢か俺ぐらいのもん ueauio i(n)aooua oeuaioo(n)
「TVshow」「トークショー」「ステージ上」「マイクロフォン」「ピンサロ嬢」と母音が揃ってるのはもはや当たり前として[ょ][ぉ]と小書き文字で韻を踏み切ってる。
「radio」「ぐらいのもん」といった単純な文字面では揃ってない部分を「レディォウ」「もぉん」とフロウ(歌い方)で無理矢理ライムにしている。韻を踏む獣「韻獣」R-指定。
異常な「連想力」
「あるワードから関連する言葉、内容を次々とつなぎ合わせてラップをする」桁外れの「連想力」
5.『生業』
オートチューン無しで泳げそうか?音の宇宙 ooouu(n) aseooeoua ooouuu
ビート板無しじゃ溺れそうか?ビートの波 iioa(n) aiaooeoua iiooai
お前の声 お前のキー そいつはオートクチュール oaeooe oaeoii oiuaooouuuu
履き違えた親不孝にはスパルタ 戸塚ヨットスクール aiiaea oauouia uaua ouaoouuuu
「泳げそうか」「溺れそうか」
「ビート板無し」「ビートの波」
「オートチューン」「音の宇宙」「オートクチュール」「戸塚ヨットスクール」
「履き違えた」「親不孝には」「スパルタ」(ケツが全部[a])
でガッツリ韻を踏むのはもちろんのこと「泳ぐ」→「溺れる」→「ビート板」→「波」→「戸塚ヨットスクール」の流れが最高にイカレ。「戸塚ヨットスクール」にゾッとした。
そして、なんと言ってもこの曲におけるR-指定のフロウ。もし自分が目の前で歌われたら死にたくなるほど腹立つ。リリックの上手さだけじゃなく悪魔的な煽りのセンス、それによってパンチラインが何倍にも際立つ。
6.『板の上の魔物』
俺の感受性ならば尾崎 oeo a(n)ueiaaa oai
世界観なら底なし eaia(n)aa ooai
武、水谷、馬並みの相棒が助太刀 ae iuai uaai o aiou a ueai
「尾崎」「底なし」「水谷」「馬並み」「助太刀」で[ai]で韻を踏みつつ、尾崎(豊)→(尾崎)世界観→武(豊)※馬→水谷(豊)※相棒
7.『阿婆擦れ』
俺はキープかアッシーか? oea iiua auiia
所詮はSucker MCか?メッシーか? oe(n)a aaa euiia euiia
お前が俺としたいのは口喧嘩 oaeaoeoiaioa uie(n)a
ただのディベート相手でしか無いってか? aao eieoaieeia aiea
同じように「キープか」「MCか」「アッシーか」「メッシーか」「口喧嘩」「無いってか」と[i-a] で韻を踏みつつ、Sucker→soccer→メッシー→メッシ(メッシのボールキープ力ともかかってる)
と連鎖していく。もはや聴くぷよぷよ。
Sucker ※ヒップホップ用語で「ヘタクソな」「未熟な」という使われ方をしている
「凄い」だけじゃない「面白い」ラップ
R-指定のラップは凄いだけじゃなく、とにかく面白い。「そんなワード使う?」とこっちが思いも寄らないような角度からリリックを組み立ててくる。
8.『助演男優賞』
主役の小粋な計らいで uauo oiia aaaie
「見せ場はこん位、君の分」と ieaa o(n)uai iiou(n)o
頂いたパスなら決めたいぜ iaaia auaa ieaie
しかも決勝点スリーポイント iao eoue(n) uiioi(n)o
田岡が見逃した不安要素 aoaa ioaia ua(n)ouo
「計らいで」「こん位」「決めたいぜ」、「スリーポイント」「不安要素」で韻を踏んでいるのはもちろん特筆すべきは、
「田岡が見逃した不安要素」
この元ネタは漫画『スラムダンク』から。湘北高校VS陵南高校にて監督・田岡茂一が湘北が抱える不安要素として選手層の薄さを挙げるも、土壇場でサブメンバーの木暮公延がスリーポイントを決めるというシーンがある。
R-指定がリリックをどこから考えてるのかわからないが、「スリーポイント」「不安要素」の韻から逆算してスラムダンクの田岡に辿り着いたのだとすると、その発想力が本当にこわいしR-指定の頭のなかをモップでかち割って見てみたい。
明るい未来 暗い未来 俺が森山なら後者モテ期なんざ来る訳ねえじゃん各駅停車 苦役列車 let's go!
このバースも鬼。未来→森山未來→モテ期(モテキ)→苦役列車…エンタメの教養力と連想力がズバ抜けてる。
※「こん位、君の分」…こんぐらいきみのぶん…こんぐれえきみのぶん…こ…ぐれ…きみのぶ…木暮…公延…
Creepy Nuts(R-指定&DJ松永) / 助演男優賞【MV】
9.『紙様』
No,Noプラダ、Noフェンディ、Noエルメス、Noグッチ oouas oue(n)ei oeueu oui
ヒデー男と言われても仕方ない ieeooooiaeeo iaaai
一応それなりに頑張っちゃいるが iiou oeaiia(n)aaiua
こりゃちょっとした行き違い ゆうてねぇ oaooiauiiai uueee
Noグッチ ヒデー男(野口英世)ouiieeooo(ouiieo)
仕方ない一応(樋口一葉)iaaaiiou(ouiiiou)
ちょっとした行き違い(福沢諭吉) oaooiauiiai(uuaauii)
もはや韻とか関係ない。空耳を逆手に取った超高度なダジャレ。セルフタモリ倶楽部。
10. 『ポーカーフェイス』(ゴスペラーズトリビュートアルバム『BOYS meet HARMONY』)
的を得ない会話 aooeaiaia
静寂包む部屋 eiauuuuea
時計の針だけtic-tic-tac oeioaiae eiueiuau
ああ降りてこい俺の中のキムタク aaoieoi oeoaao iuau
ガラじゃないかこんなロマンティックな歌 aaaaia o(n)a oa(n)eiuaua
「tic-tic-tac(ティックティックタック)」「キムタク」「ロマンティックな歌」、キム「タク」とロマン「ティック」で「ティックタック」…ヒップホップ業界広しといえど木村拓哉でこれほどまで華麗に韻を踏めるのはR-指定以外いない。そう、奴こそがhip hop HERO。
番外:やたらと「数を数えたがる」
R-指定はラップでやたらと「数を数えたがる」。LIVEのオープニングで歌われている未音源化の『数え唄』やヒプノシスマイクどついたれ本舗に提供した「あゝオオサカdreamin' night」でも韻を踏みながらリリックの中にサラッと1〜10までの数を忍ばせている数鬼。
呑まれちゃ「一巻(1巻)」の終わり
「時間(2巻)」はもう迫ってる
「参観(3巻)」日のガキのごとく妙な気分で待ってる
何か起こりそうな「予感(4巻)」
研ぎ澄ませテメェの「五感(5巻)」
「無冠(6巻)」の帝王じゃ終われへん
成し遂げてから死「ななアカン(7巻)」
やたらヤバめ「発汗(8巻)」作用
ナイトフライト夜間飛行
ブッ倒れて急患「(9巻)」で運ばれるほど
振り絞ってこそ得られる生きてる「実感(10巻)」
要するに『板の上の魔物』はヤバい。何度でもリバイバル。それが生き抜くためのサバイバル。
…また、さっきも紹介した『生業』の冒頭「64小節の旅の始まり」の「64」。
「一本のマイク」「一本のペン」「一枚のペーパー」「4の5の言わねぇ」「七面倒」「広辞苑10冊分」「待ち合わせる10年後」「10分15分でぼったくって」
リリックの中に出てくる数字を全て足すと…
信じるか、信じないかは、あなた次第です。
以上。Creepy Nuts、もっと早く聴けば良かったと後悔しているこの私生活yeah…
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