マヨネーズと結婚がしたい。
小さい時から俺のそばにはマヨネーズがいた。エビフライ、唐揚げ、コロッケ、フライ、サラダ、納豆、トンカツ、カレー、白米…なんにでもかけ、かけられる仲だった。
俺はいつもマヨネーズを必要としていたし、マヨネーズも俺を必要としてくれていたと思う。
「好きだ」
そう言葉では伝えなくても心は通じ合っていた。
でも俺は過ちを犯してしまった。
ある日、夜の店で見かけた彼女に心を奪われた…
「な、何してるんですか…?」
気がつくと俺は声をかけていた。彼女は微笑みながらこう答えた…
「待ってるの...私を必要としてくれる誰かを…」
彼女の名前は『タルタルソース』…
頭がおかしくなりそうなほどの甘味、コク、その妖艶な雰囲気に俺は一瞬で虜になった。そしてしだいにタルタルソースなしでは生きてはいけない身体になっていた。
マヨネーズのことを忘れ、夢中でタルタルソースをかけた。…乱暴にぶちまけた。
タルタルソースと身体を重ねるたびにマヨネーズとは会わない日々が続いた。どんどんマヨネーズへの気持ちはハーフ、ライト、ゼロノンコレステロールになっていった。
「お前なんかもういらない」
直接口にしないまでも、マヨネーズに対してそういう態度をとっていた。そう、からしのような態度を。知らず知らずのうちに俺はマヨネーズを傷つけていた。俺のマヨネーズに対する想いにカラが入っていた。
しかし数ヶ月もすると、俺はタルタルソースの重たいところに耐えられなくなり自分から別れを告げていた。
すべてを失い、自暴自棄になった。醤油…ソース…ドレッシング…ポン酢…好きでもない味に逃げる日々、なにもかもどうでもよかった。
そんなある日…自宅のポストに一通の手紙が届いていた。
「もしかして...」
マヨネーズからだった
「お久しぶりです、マヨネーズです…お元気ですか…?あなたに伝えておかなければならないことがあるの…会ってくれませんか…?」
裸足のまま駆け出していた。勝手だってことはわかってる、でもタルタルソースと過ごすうちにマヨネーズが俺の中でどんどん大きく、かけがえのないものになっていったのも事実だった。
会いたい、今すぐマヨネーズに会いたい。マヨネーズ…マヨネーズマヨネーズマヨネーズ…まるでチューブに残っている最後の一滴まで使い切るかようにマヨネーズの名前を何度も叫んでいた…
待ち合わせの場所に着くとマヨネーズはそこにいた。
「...久しぶりだね」
マヨネーズはそう微笑んだ。その優しい笑顔は出会った頃とまったく同じだった。
「き…聞いてくれマヨネーズ…ずいぶん遠回りした…でも俺にとって本当に大切なものがなにかわかったんだ…素直な気持ち、ピュアセレクトに。俺にはマヨネーズが必要なんだ。マヨネーズ、俺と...」
マヨネーズに自分の想い全てを伝えたいがあまり早口になる俺の言葉を遮るようにしてマヨネーズが口を開いた。
「知っていたわ。だってずっとそばで見てきたもの」
「え?何言って...」
「タルタルソース、あれは私なの。いえ、正確にはあれ「も」私なの」
突然のマヨネーズの告白に俺はただ戸惑うばかりだった。
「私にはもうひとつの顔があるの。ひとつは昼の顔マヨネーズ。そしてもうひとつが夜の顔タルタルソース。どっちも私よ。ふふ、あなたったら全然気がつかないんだもの…キャッ…!」
マヨネーズを抱きしめていた。「ぶびゅ!」という音がした。
そうか…そうだったんだ…マヨネーズは、いつも俺のそばに居てくれていた…でも俺はそれがあたりまえになっていて本当に大事なものを見落としていたんだ…マヨネーズは卵なしじゃ、決してできないと…
俺はそっとまぶたを閉じた。迷いはなかった。もうコレステロールなんて、気にしない…
「マヨネーズ…もし...もし良かったら俺とずっと一緒にいてくれないか…俺には君が必要なんだ…」
瞳に涙を浮かべながら、静かに頷くマヨネーズ。
「少し酸味が強すぎたかもしれないわね…」
いまやっとわかった…
俺にとってマヨネーズは天使...いや...キューピーだったんだ…
…
ただ…俺にはずっと忘れられない人がいる…キューピーを抱き締めながら違うマヨを想ってる……びっくりだろ…?