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ミクスチャーブログ

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漫画『氷の城壁』を全人類の教科書にしたい

漫画『氷の城壁』を今すぐに全人類の教科書にしていただきたい。子供いませんが、もしいたら読み聞かせの本全部『氷の城壁』にしてた。

まず内容の前に、作者・阿賀沢紅茶の

 

「圧倒的なデフォルメ絵の良さ」

 

について語らせてもらう。おそらく今日本で一番「デフォルメ絵が強い漫画家」、それが阿賀沢紅茶…

「肉体から解放されてデフォルメ絵になりたい」と願うほどデフォルメ絵を愛してやまない俺ですが、はじめて阿賀沢紅茶のデフォルメ絵を見た瞬間、こんなにも人の心をくすぐるデフォルメ絵を書ける人間がまだこの世に存在しているのかと吐血した。それほどまでに、あまりにもキャラクターが「おいしそう」なのです。

モチモチと膨らんだまんまるのフォルム、フグ田タラオを超えたコミカルすぎる擬音、「ちぎりパンの擬人化」とはまさにこのこと。マジで「食べたい」。それでいて「全キャラ誰が誰だか完璧に把握できる」特徴を捉える上手さ。俺が漫画家ならこのデフォルメ絵見た瞬間に絶望して全ペン折ってる。 

デフォルメ絵は「ガチ絵」との差が大きければ大きいほどその威力を増すんですが、そのギャップの「魅せ方」があまりにも完璧。

現世における「3大デフォルメ神」とは、

 

椎名軽穂

冨樫義博

井上雄彦

 

であることは議論の余地がないと思いますが、今ここに肉薄し超えるほどの勢いを持っているのは、間違いなく阿賀沢紅茶。

「ボガァァァアアアアン!!!!!」とキメるキメゴマでのキャラクターの絵と「フッ………………………………」と抜くときのデフォルメ絵のコマの落差に神経が灰になる。

デフォルメ絵で極限まで「ユルさ」を演出しておいて読者を完璧に油断させておいてからの、フルパワーで描かれたマジキャラクターの笑顔ドアップ、完全に失神案件。画面に向かって何回「かわいすぎる殺してくれ」と叫んだか分かりません。

 

そして、その絵のギャップを2億%活かしたキャラクター描写に震えが止まりませんでした。『氷の城壁』のメインキャラクターは「4人」なんですが、

 

小雪…こゆん。第一印象「ジェネリック爽子か?」とか思って本当にすいませんでした…

他を寄せ付けないような雰囲気を持つ女の子で、中学の時のある出来事がキッカケで一人を好むようになり「自分を出す」ということを極端に嫌うようになってしまう。話を重ねるごとに、どんどん心の氷が溶けていってどんどん素敵になる小雪を俺は一生守りたいと誓った…

 

美姫…こゆんの親友。第一印象「どうせ変わってく小雪に嫉妬して親友のフリして裏でクソめんどくせぇムーブかます厄介女だろ」とか思って本当にすいませんでした…

中学までのサバサバした性格の自分を隠し高校では静かに暮らそうと遠慮していたら、いつの間にか学校の人気者になってしまった女の子。クラスメイトといるときの自分と、小雪たちといるときの自分との乖離に悩む。

本当に人間は他人を自分の見たいようにしか見てねぇんだなということが分かるし、それで苦しんできた美姫の気持ちを思うとこのクソ世界をイチから作り変えたくなる。こんな友達想いのいい子を悲しませる世界なんて俺が壊してやるよ…

 

ミナト…第一印象ただの典型的な「ズカズカと人の心に踏み込むことを正義だと勘違いしてる距離感がバグりアホ男」だと思ってたの、本当にすいませんでした…

「マジで小雪に近寄るんじゃねぇクソちんこがよぉ」と思った最悪の第一印象からの「ミナトぉ…もうそんな無理しなくていいんだよ…お前の気持ち分かってくれるやつはちゃんといるからよ…そしてその役目を俺が任せてくれないか…?とりあえず今度おごるから飲み行くべ……?」への高低差が激しすぎてゲロ吐きました。器用そうに見えて誰よりも不器用なのがマジで愛おしい…

 

陽太…ミナトの親友。第一印象ただのテンプレピエロ当て馬野郎だと思ってて本当にすいませんでした…

陽太以上に「優しいやつ」はこの世に存在しないんじゃないか思ってる…陽太はたぶん自分のことを「優しいやつ」って思われるのを嫌がるんだろうが、それでも俺は世界一デカい声で言ってやりたい。お前は優しいやつだよ…陽太…とにかく陽太にはもっと自分を大切にしてほしいし、あったかいメシいっぱい食べさせてやりたい…

 

この4人それぞれの視点で、誰しもが持っている悩み、苦しみ、コンプレックス、他人から見た自分と自分が思う理想の自分のギャップ、思春期のグチャグチャな全ての感情をこの漫画は決して難しい言葉を使うでもなく、しかし恐ろしいほどド丁寧に描いていて、確実に4人は漫画の世界で生きてる。

「恋愛は友達を裏切ってナンボ」「他人のスマホ覗いてからが本番」と、偏見まみれで読み進めていた1話の俺の首を今すぐにブッた斬りたい。誰かの足を引っ張り合うだけが物語じゃねぇんだボケェと、過去の俺の胸ぐらを掴んでやりたくなった。

そして、話を重ねるごとに、ページめくるたびに、どんどん4人のことを好きになっていった。というか、もはや4人は「俺」だった。「こゆんの気持ちに共感!」みたいな単純な感覚ではなく「みんな俺」なんですよ…

もう成人式から余裕で10年過ぎてますが『氷の城壁』を読んでる時だけは…俺は「高校生」で…俺はこゆんで…美姫で…ミナトで…陽太で…

 

4人の青春は完全に「俺の青春」として心に刻まれました。もし飲み屋とかで、自分のことを「こゆん」として話してる男がいたら俺です。すぐに通報して、リアル『氷の城壁』こと網走刑務所にブチ込んでください。

 

…そう思って鏡を見ると、毛むくじゃらで汗だくの半裸の男が鬼のような顔をしてこっちを見ていた。こいつのどこが「こゆん」だ。俺だって、デフォルメ絵が似合う人間に生まれたかった。