色んな人間からさんざん「漫画『スキップとローファー』読め」と言われても、なんとなく気分が乗らず後回しにしてきた人生だったんですが、先日ようやく読みました。
俺の今までの人生いったいなんだったんだ
俺はなにをしてた?なに考えてたんだこのクソッタレは?やり直したい…こんな最高の漫画を無視し続けた過去の俺の後頭部をブン殴って気絶させ両手両足を縛り付けて島流しして牢獄に閉じ込めて強制的にスキップとローファーを読ませ続けたい。
デカい事件が起きるわけでも、大恋愛が始まるわけでも、物語をかき乱す悪者が出てくるわけでもない、あくまでもただ「高校生の日常」を描いているだけなのにあまりにも面白すぎる。読み終わったあとの
「イイもん読ませていただきました……」
という充実感と「この続き読むためなら親すら裏切るかも」と思わせるほどの吸引力。とにかく人間を分かりすぎている。高松美咲先生20人いるだろとしか考えられない。
絵はほんわかしていて癒やされるのに、登場人物全員の心情がありえないほどリアルにそして丁寧に描かれているからそこに1ミリも言動に違和感がない。描きたい物語があってそれに向かってキャラが動かされているのではなく、キャラが動いた先に物語が生まれていく。
『氷の城壁』を読んだ時にもあった幻覚にも近い異常な没入感。1ミリもこんな学校生活は送ってねえのに「俺の青春はこれだった」となってしまう。スキップとローファーじゃなくてタイトル「青春解体新書」でもいい。
教えてくれた人には「ありがとう…」の気持ちしかないんですが、ただ「予言する。お前は絶対にミカを好きになる」とか言ってくる奴らめっちゃいて、マジでキレました。
「いやふざけんなよ。ミカってあれだろ?主人公のみつみに対して雑な態度取ってたくせにイケメンと近づいた瞬間に急に距離詰めてくるような意地きたねぇやつだろ?なんだあいつ?人試すようなことしやがって。最低だな。そんなやつのこと俺が好きになるわけねぇだろうが?俺のこと分かった気になってんじゃねぇバ
おミカ………おミカ………おミカ………おミカ………おミカ………(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)(泣)
人を見た目や第一印象で判断することの愚かさ…俺はミカのことなんも分かってなかった…ごめんな…
江頭ミカは「主人公と好きな人がかぶる」という一見、恋愛漫画において決して抗うことのできない業「当て馬」を背負った哀しき少女だと思っていたんですが、まったく違う。
そもそも前提として、これは恋愛漫画などではない。正しくは「恋愛」という要素はこの漫画のひとつのピースにしか過ぎないのだ。なぜならこれは「みんなの人生の漫画」なのだから…
ミカは「今どきキラキラ女子」の皮を被りながらも過去の出来事から「自分自身」に対して自信がなく、多くのコンプレックスを抱えていた。その反動からか、まったく飾らないのにいつも自信に満ち溢れた(ように見える)みつみに対して、仲良くなってからもどこか距離を取ってしまっていた。
そんなミカが「志摩のことが好きな自分」と「みつみと友達でいたい自分」とのあいだで葛藤しながら少しずつみつみへの想いが大きくなっていくその過程の素晴らしさよ…
例えば、クラスマッチで一緒にバレーの練習してた時(2巻)は「岩倉さん」だったのに、当日「みつみ」呼びに変わってるところ…それだけで眼球吹き飛ぶくらい涙が出る。友達が「名字呼び」から「名前呼び」に変わる瞬間、世界文化遺産に登録していただきたい。
夏休み、みんなでお泊り会しよう!(3巻)みたいな話になった時も、話振られて(私も入ってたんだ)と、まだ遠慮がちだったり、お泊まり会当日も、みつみ達と一緒にいたいという思いがありながらも「恋愛の話になって気まずくなりたくない」という思いからウソをついて途中で帰ろうとしていたんですが、その時のナオさん(みつみのおば)が言った
「ちょっとでも泊まってよかったなって思ってるんだったら、外食の日勘違いしてたって今すぐおみつに電話しなさい。
恥ずかしいとこあるくらいがかわいいわよ。何に気後れしてるのか知らないけど、誰かと本当の友達になれるチャンスなんてそうそうないのよ」
明日、掛け軸にします。自分に対して、他人に対して恥ずかしいくらいに素直になる。この言葉が『スキップとローファー』という漫画の「核」と言っても過言ではないでしょう。ナオちゃんが出てくる全てのシーンを印刷して家中に貼り付けたい。
それから無事4人でお泊まり会をしている時のミカの楽しそうな顔と言ったらもう…生まれ変わったら4人が座ってるソファになりてえんだ俺は…
「みつみ×ミカ」で俺が一番好きなシーンが、みつみが田舎帰るからお土産買うのに最後のクラス会の二次会参加できないってなった時に(6巻)
「1時間くらいでしょ。私も一緒に探してあげる」
って言いながらみつみの腕を組んだ瞬間、鼻爆発しました。俺のこの気持ち…いったいどうしたらいい…?
「ミカがみつみの腕を組む」の意味が分かるか?夏休み明け(3巻)にみつみが抱きつこうとしても「いい。いい」みたいなリアクション取って照れてた子がだぞ…?振り込みたい…将来かかるであろう一生分の家賃を振り込みたい。
そして「照れ」といえば「まこと×ゆづき」の関係性も最高としか言いようない。みつみとミカ以上にまったく違うタイプだった2人が「一番のなかよし」と言い合えるくらいにまでなっていく…
まことはゆづきと仲良くなれた嬉しさがありつつも、あまりに自分と違う彼女に気おくれし、どこか「私なんてどうせ」という気持ちがあった。だが、どんなときも真っ直ぐ、恥ずかしいくらいに好意や心配を口にしてくれるゆづきを見て、まことはこう思うのだ。
(恥ずかしいことなら私も思ってる。きっと伝えたほうがいい。
私、高校生のあいだ彼氏できなくても地味でも、こうやって落ち込んだその日に会いに来てくれる、あんたと友達になれただけで最高に幸せだよって)
そんな心の声とは裏腹に口にするせいいっぱいの「ありがとう…」…まことの感情が俺の中に入りすぎて虹色のゲロ吐いた。
それから時を経て、ゆづきにピンチが訪れてしまう。2年生となり、クラス替えで一人離れてしまうゆづき。ある日、望んでもいない恋愛に巻き込まれクラスメイトとトラブルを起こしてしまう。上手く馴染むことができないゆづき。
「山登りのお昼4人で食べたいな」とみつみに言う時にお泊まり会を思い出すゆづきの気持ちを思うと胸が張り裂けそうでしたし、ゆづきが「いちばん仲よかったコたちだよ」とみつみとまことを紹介した時に「マジか〜」つった糞野郎夜道気をつけろ。
まことは、そんなゆづきの気持ちに寄り添いたいと勇気を振り絞ってこの言葉をかける。
「私さ、学校じゃゆづといちばん仲いいの私かなーとか勝手に思ってて、だからなんてのかな、私らタイプ違うし?いちばんの理解者にはなれないかもってことはわかってんだけどさ、でも聞きたいんだよ、苦しいことも」
「あの」まことが、これを心の中じゃなく実際に言える友達ができたことの素晴らしさが分かるか…?たのむ税金を全て負担させてくれ。
それぞれのキャラクターがそれぞれの悩みを抱え、少しずつ乗り越えていく…そして中心にはいつも「みつみ」がいる。みつみは決して誰からも好かれる存在ではないかもしれないが、みつみを理解しようとしてみつみを愛し、みつみの味方でいたいと思う人たちが大勢いるのだ。
みつみは生まれながらの「バタフライ・エフェクト」なのだと俺は思う。みつみが全力で壁ぶつかるたびに、周りの人間達の気持ちや行動が少しずつ変わり、新しい一歩を踏み出していく。
そういった物語の連鎖が『スキップとローファー』なのだ…そして俺が感動のあまり窓から大声叫んで警察に通報されかけたシーンがあります。それが
HUG…
だ…みつみやゆづきはもちろん、ミカもまことも1ミリも照れがない100%の「HUG」。なんて素晴らしい友情なんだろうか。この瞬間4人は本当の意味で「親友」になったのかもしれない。『Scene39 うだうだの帰り道』の扉絵を額に入れて玄関に飾らさせてほしい。この愛おしさ、世界は救わないが俺を救う。
みつみ「いつかさー、おとなになってお酒飲んだりしながら、話したいなー」
俺「できる…きっとできるさ…俺が保証するよ…」
と涙を流しながら、夜中に一人で半裸で汗だくになりながらレモンサワー飲んでるその男…スキップとローファーなどではなく、ただの「アルコールとモンスター」でした。
俺だってスキップとローファーが似合う人間になりたかったよ。助けてくれみつみ