ドラマ『アンサンブル』のことをずっと考えてる。このドラマはいったいなんだったのか、どうすればよかったのか。
「虚無」
最終回の感想を表す言葉として、これ以上のものを私は知らない。なにもない。このドラマには何もなかった。
1分で考えた描きたいシーンがあり、それに向かうためだけの装置としてセリフが当てられてるような、あらゆる言葉や行動に温度がいっさい感じられない、壁の模様を見ているほうがまだマシだと思えるドラマだった。
誰と誰が付き合った。別れた。結婚した。離婚した。家族だった。血が繋がっていなかった。普通ならばドキドキする要素のはずが、全てが「どうでもいい」、少しも心拍数が上がらない虚無ドラマに仕上がってしまった。
関係者は本当にこれでよかったのか、なぜ止めなかったのか。「これ面白いと思ってますか」「一回根本から考え直しませんか」「これマジで放送するんですか」「悪いことは言いませんからやめましょう」なぜ誰も口にしなかったのか。
生肉と生野菜にカレー粉をぶっかけて
「これがウチのオリジナルカレーです!ぜひ素材の味を楽しんでください!」
と言われている気分だった。素材の味を楽しむもなにも、生のままで肉を食ったら腹を壊す、ということを料理する側が誰も理解していなかった。これが「ドラマ」という作り物で本当によかった。
「このドラマはAIが作った」と冗談で言っていたが、むしろ逆にAIであってほしくなかった。
もしこれがテクノロジーが進歩した結果ならば、私は科学というものに心から絶望していただろう。これが「人間のしわざ」なのが唯一の救いだった。
「キッザニアの脚本家になりたい幼稚園児たちがあいうえお作文で1行ずつ順番に書きました!」たのむから、そう言ってほしい。
弁護士会はこのドラマに対してなにも思わないのだろうか。たった「6人」しかいない事務所で、そのうちの4人が業務中に長々と「同僚の結婚相談」をしているという、すこぶる狂った状況。
なぜ潰れないのか。なぜ普通に全員に給料が発生しているのか。月に何人の依頼があり、一件あたりの報酬はどれくらいで、売上はいくらなのか。ぜひ公開してほしい。
「弁護士って1日中ずっと恋愛の話だけして、会社帰りにみんなでカラオケとか行ったり、良い人がいれば職場内で付き合えちゃう、超簡単で楽しい仕事なんだ!私もなろう!」
そう思わせてしまう危険性はないのだろうか。もし私が弁護士なら「婚前契約書」のシーンあたりで、頭をかきむしり全裸になって部屋から飛び出して大声で叫びながら夜道を走り回っていただろう。
幼少期にドラマ『ナースのお仕事』を見て、入院患者を注射器ダーツの的にし、医療用カートで轢き殺そうとするイかれたナースが本当にいるんだ、楽しそうだな、と勘違いしたものだが、それ以上の怖さがあった。
なぜ、このドラマの職場が「弁護士事務所」でなければいけなかったのか。誰か納得のいく説明をしてほしい。「近所のスーパー」とかでよかったのではないだろうか。
最後の最後に「実は2人は幼少期の頃に会ってました」という、ティファールのフライパンよりも取ってつけた裏設定を突然入れるそのメンタル。もはや恐怖。
「だからなんなんですか…」
としか思わなかった。これで「えー!そうだったの!?すごい運命!キュン♡」となると思われてることがとても悔しかった。「舐められている」はっきりとそう感じた。視聴者をチュッパチャプスかなにかだと思っているのか。せめて「キュン」に対してだけは誠実でいてほしかった。
様々なカップル、夫婦のトラブルを通して恋愛に不器用だった二人が少しずつ距離を縮め、愛を育んでいくストーリーだと思っていたし、最初はそうだった。それならまだ良かった。
しかし終わってみれば、弁護士業務もせず1ミリも興味のない身の上話をいつまでも見せられる「激キモ家族博覧会」だった。
「キュン」を人質に、ここまで意味のない映像を流されるとは思っていなかった。回を重ねるごとに人質が増えていった。そして全ての「キュン」を助けることができなかった。犠牲になってしまった。
だったらせめて「実は男はタイムリーパーで女を救うために1000回人生をやり直している」くらいしてほしかった。「全部おふざけです」そう示してほしかった。
「推し活」
この言葉が、このドラマを作り出してしまったのではないかとすら思ってしまう。
人気の俳優が、人気のアイドルが出ていれば、どんな作品だろうがファンは話題にし、最低限の視聴率、再生数は取れ、トレンド入りしてしまう。
Xやインスタグラムの公式アカウントで共演者たちの仲睦まじい姿や、オフショット、クランクアップ動画などを載せれば、少なくてもファンから数千以上の反応はもらえる。
「せっかく推しが出てるんだから盛り上げないと!」
この『アンサンブル』というドラマは、そんな純粋な感情を利用して目先の数字を増やすことだけに囚われた亡者たちの欲望から生まれてしまった悲しきモンスターだったのではないかと。そう思ってしまう。
生まれてしまったのものは、仕方がない。私も少しでも面白がろうと、良い部分を見つけようとしたが、駄目だった。
煙。このドラマは煙だった。つかもうとしても、手をすり抜けてしまう。消えたらなにも残らない煙。
全10話。約450分という時間でできたことを考えている。何作映画を見れた?何回食事に行けた?何回温泉に行けた?
なんだってできる。どこにだって行ける。世界にはこんなにも素晴らしいことが溢れているのに、なんで私はこのドラマを最後まで見たんだろう。泣きたくなったが、涙も出てこなかった。私は枯れてしまった。
はいあがろう。
「クソドラマを見たことがある」というのが、いつか大きな財産になる。