25年も第一線で音楽やってりゃ流石に守りに入りたくなるというか、「もうこんなもんでいいか」みたいになると思うんですよ。これだけ熱狂的なファンが大勢いるバンドになったら「みんなが望むMr.Children」を適当にやってりゃいい。コンビニのおにぎりの具の数くらいとんでもねぇ数のヒット曲があって街中にミスチルの曲が流れてる。普通に生活してたらミスチルを聴かないで生きることのほうがムズいっていうこの日本で、極論言ったらミスチルなんてもうわざわざ新しい曲作る必要すらないじゃないですか。9割9分ほぼ全ての作詞作曲やってるフロントマン桜井和寿にいたっては「預貯金額いくらなんだよ、なん恒河沙(ごうがしゃ)だよ」って話じゃないですか。リアル5000兆円じゃないですか。こっちは半分冗談で「ほしい!」っつってんのにあのイヤらしい笑顔で「え?あげるよ?」とか言ってきそうじゃないですか。
そんなシムシティの終盤くらいに地位も名誉もあって「もうやりつくしてやることねぇわ」っていうトップ中のトップが「自分たちの音楽見つめ直して新しい気持ちでもう一回あるがままの心ぶつけていこうぜ」「まだまだ音楽界って高い山登っていこうぜ」って覚悟決めた今作『重力と呼吸』、事実上のファーストアルバムじゃねぇかって思いました。
とにかく全曲、桜井さん以外の3人の主張が今までのアルバムの中でも圧倒的に一番強い。ぶっちゃけ天下の『Mr.Children』って言ってもファン以外にしてみりゃ「桜井和寿 with C」くらいなもんで実際ファンって言ってる奴ですら名前言えんのかどうか怪しくて、この間も「ミスチルすごい好きで〜」って言ってる女にメンバーの名前聞いたら、
「桜井さんと〜…あと、えーっと…何人組だっけ?」
REFLECTIONのUSBメモリで頭カチ割ってやろうかコラ。
だったのが、今作は4人の位置がめちゃくちゃ並列。なんならその桜井さんがちょっと後ろ下がってんじゃねぇかって思うほどギターもベースもドラムも「俺の音を聴け」ってバシバシ主張しまくってる。今までだったら曲によっては小林武史にボリュームがっつり絞られてんじゃねぇかってくらいモスキートで、ギターソロがあるってだけで「こりゃ今夜は赤飯だな…」ってファンの中では軽い祭りだったのに、今作は全曲ギタービンビン、ベースベンベン、ドラムドンドン、誰がどう聴いても『4人組ロックバンド・Mr.Children』です。改めて紹介します。ギター!マッチ棒!田原健一!ベース!カッパ!中川敬輔!ドラム!ホームレス!鈴木英哉!
一曲目『Your Song』から非ファンからすれば「誰の声?」って言われかねない、まさかのJEN(鈴木英哉)のカウントから始まり、どの曲もいわゆる「今までのMr.Children」を期待してた人からしたらちょっと面食らうような単純でストレートなものが多くて、カレーライス食いに来たのにカレーラーメン出てきたみたいなもんで「いや…たしかにカレーだけどよ…頼んだのこれじゃねぇよ…」ってなる人もかなりいると思うんですよ。『himawari』『here comes my love』なんかの一部のタイアップ曲はまた別として、桜井和寿お得意の世間を斜めからモノを見る尖った考え方やエッジの効いた言い回し、ヨダレ出るくらい気持ち良い韻踏みなんかは少ないし、メロディにしたってもう一段階盛り上がれるであろうところで盛り上がらずスパッと終わってたりするし。
でも、歌詞もメロディも過去の売れ線の曲っぽくキャッチーかつ壮大にしようと思えばいくらでも朝メシ前にできたはずなんですよ。「どこをどうすれば売れる曲になるか」「どこをどうすれば群衆に響くか」っていうのはたぶん桜井和寿が日本で一番わかってんだから。でもあえてそうしない。出たまんまの感じたまんまの「生身の音」「生身の言葉」を届けることに重きを置いてる今作、一曲一曲の好き嫌いは置いといて、アルバムとして最高にカッコいい1枚だなって思ったし、その中でも特に『SINGLES』『皮膚呼吸』はみんなが望む「今までのMr.Children」と自分達の先を見据えた「これからのMr.Children」がガッツリ絡み合った最強の曲だと思ったし、この2曲だけエンドレスで100回以上聴いてるし俺自分の会社作ったら「(株)皮膚呼吸」にするって決めた。
『重力と呼吸』発売前のコメントで桜井さんが、
「後輩ミュージシャンがこのアルバムを聴いたら、音楽をやめたくなるような、また、もう僕らを目標にするなんて思わないくらい圧倒的な音にしたい」
Mr.Children | 重力と呼吸 | TOY'S FACTORY
って言ってたんですが音楽やめたくなるっていうか、逆に火ついちゃうんじゃないかと思いました。日本で音楽、バンドやっててミスチルの影響(重力)受けてない奴なんてたぶんゼロだと思うんですけど、イキのいい後輩ミュージシャンがこのアルバム聴いたら「オッサン連中がこれだけ熱いもん作ってきたら俺たちも負けてらんねぇ」って今まで「憧れの対象」だったミスチルを良い意味で「対等なライバル」として意識し始めるんじゃねぇかと。
それで後輩が「ぶっ潰してやるよオッサン」って聴いたこともないような先進的でカッコいい曲作って、それをまた受けてまたオッサンが「調子乗るんじゃねぇガキが」ってバッキバキに気合入った曲作るっていう、誰かが吐いた二酸化炭素吸って酸素にする(呼吸)みたいなこの循環、いち音楽ファン、いちリスナーとしてこの上ないほど幸せで心の底から「そのケンカずっとやりあっててくれ」って思った。超楽しい。